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評者◆伊達政保
親子の世代間ギャップを打ち出した新鮮さ 加納明弘・加納建太著『お前の1960年代を、死ぬ前にしゃべっとけ!――肺がんで死にかけている団塊元東大全共闘頑固親父を団塊ジュニア・ハゲタカファンド勤務の息子がとことん聞き倒す!』(本体一八〇〇円、ポット出版)
No.2991 ・ 2010年11月27日




 加納明弘、加納建太著『お前の1960年代を、死ぬ前にしゃべっとけ!〓〓肺がんで死にかけている団塊元東大全共闘頑固親父を団塊ジュニア・ハゲタカファンド勤務の息子がとことん聞き倒す!』(ポット出版)という本が出た。とにかく面白い。題名にある通り、三派全学連から東大全共闘に至る運動の軌跡を、親父が息子の突っ込みを受けながら語るといった、これまでなかった方法論による、60年代オーラル・ヒストリーである。インタビュアーによる聞き書きという試みは、これまでこの図書新聞等でもなされてきた。しかし、親子のギャップ、世代間ギャップを前面に打ち出しての聞き書きは新鮮であり、理論や思想の理解や継承ではなく、時代の意識や感覚の継承が重要であることを知らされるのだ。
 65年(昭和40年)、東大に入学した親父(明弘氏)は日韓条約反対闘争から運動を開始し、革共同中核派として三派全学連で、67年羽田闘争、68年佐世保エンタープライズ反対闘争、王子野戦病院反対闘争に参加する。後にいう「激動の七か月」にフル・エントリーするわけだ。そしてその理由をベトナム反戦と語る。アメリカの行っている義の無い戦争に反対すること、それがその時代の感性であったこと、世界的同時代現象であったことを息子(建太氏)に説明していく。しかし三派全学連や党派(セクト)の関係を息子はなかなか理解出来ない。ましてや学生が党派の共産主義運動に加わっていく事など、現在において理解の範疇を超えることなのだ。そこで親父は世界史的流れを説明していくことになる。アメリカの大学卒業の高学歴でグローバル的職業の息子でさえ、第二次大戦でドイツとソ連が最も大規模の戦闘を行ったことを知らなかったことについて、オイラも愕然としちまった。
 そして全共闘運動だ。三派全学連の分裂から、内ゲバに至る過程で、親父は中核派を離脱。始まったばかりの東大闘争に専念していくことになる。党派活動家と人的にダブルことになっていたとしても、共産主義運動ではない、個別システムに対する学生の異議申し立てが全共闘運動であったことが、親父と息子の議論の中で鮮明になっていく。新左翼学生運動と全共闘運動の違い、この辺りの理解を掘り下げるためには、もう少し背景になるもの、すなわち文化領域の問題に踏み込んでほしいと、本書を読み終えて思ったのだ。
 現在、新左翼学生運動史を研究する若手の学者や批評家は、文献の研究によって、新左翼の思想や理論が運動を引き起こしたと捉えがちである。しかし実際は運動が始まる中で思想や理論が必要とされたことが、本書を読めば分かるのだ。
(評論家)







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