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評者◆秋竜山
省略省略また省略、の巻
No.2990 ・ 2010年11月20日




 少年の頃、「漫画は省略と誇張の芸術である」などと、漫画家になりたいもの同志の地方の仲間と文通のやり取りをしたものであった。省略と誇張、などと、どこでおぼえたのだろう。また、誰がいいだしたのか。漫画少年たちにとっては、馬鹿の一つおぼえであったことは、いうまでもない。その一言で、どれだけ気分的に、自分でも漫画を描けるようなサッカクしたか。心好いサッカクである。漫画の格言のようなものである。格言というものは、いい気分にさせられるものであるから、当時の漫画家を夢見ているものにとっては、その「漫画は省略と誇張の芸術である」というのには、それを知っていると知らないのでは月とスッポンであった。だからといって、知っていたから漫画家になれた、というものでもなく。知っていなかったから漫画家になれなかったというものでもないのであろう。外山滋比古『省略の詩学――俳句の詩学』(中公文庫、本体五七一円)では、〈俳句のかたち〉としての〈日本語論の第一人者が考える、俳句ということばの芸学〉(オビより)。本書を手にした理由は〈省略〉という文字が眼に飛び込んできたからだ。声の言葉は耳に飛び込むものだが、文字の言葉は眼に飛び込んでくる。
 〈切字はいわば不完全終止符のようなものである。それが〝不完全〟終止符であるとこに、俳句の俳句らしいリズムを生む原動力があるとともに、俳句をして何か言い残しをもった省略表現と感じられるゆえんでもある。〉〈俳句のような短詩型文学を確立するには、表現圧縮の具体的技法が発達していなければならないが、それを可能にしたのが、切字であり、断切による空間表現の発見である。十七音の中では普通の文章法に従うことはできない。短い詩に余情の豊かな内容を盛るには省略・飛躍の措辞を工夫しなくてはならなくなる。〉〈切字こそ俳句における省略の詩学の指標で(略)〉〈極限までの省略表現〉〈圧縮されて省略的になっている〉〈俳句が点描画的省略性をもった文学だからであろう。〉〈俳句は普通のことばの意味における省略の文学とはいえないことになる。俳句は何かあるべきものが省かれて、あの形になっているのではない。補って完全な形をつくることが可能だというような省略でもない。俳句は俳句として充足した表現であって、(略)〉〈本書より〉
 本書を読みながら、省略という文字にドキドキさせられ、次々と出てくる省略という文字に、省略ということが、ただものではないことが伝わってくる。省略を、「ハイ、省略します」などという軽い言葉で発するには、恐れおーいものがある。省略というものを全然違う角度から考えてみる。と、いうのも、省略ということは、恐しいことであるということだ。たとえば、「あなたを、省略します」と、宣告されたとしたら、どーしましょう。自分が省略されてしまうということだ。省略されて、その場から姿が消えてしまうということだ。漫画を描いていて、必要ない線を省略していく。もうこれ以上、省略できないところまで。しかし、また線をつけくわえていくのである。余分の線があってナゼわるいだ!! と、いう気分がしてくるからだ。そして、又、省略が始まるのである。







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