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評者◆小嵐九八郎
「演技」と「命とは何か」の交換――伊藤一彦/堺雅人著『ぼく、牧水!――歌人の学ぶ「まろび」の美学』
No.2989 ・ 2010年11月13日




 高校の後輩のS雅彦くんにサインを貰ったら「縄文人の小嵐さんへ」と書かれたことがある。たしかに、鶴田浩二、高倉健、菅原文太以降の男の俳優は、ほとんど知らない。女優は、久我美子、吉永小百合さん、山口百恵さん、ナンダカ聖子さんどまり。あ、尾野真千子さんは知っている。理由は、あのそのう。男優で、もう一人、めったに観ないTVを、二年前に風邪で寝込んだ時に観て、『篤姫』だったのだが〝うつけ役〟が決まっていて、堺雅人さんを覚えている。
 それで、本屋で平積みになっていた新書の中に、「伊藤一彦 堺雅人」と並んで著者(?)が記されていて、前者は、この欄でも、幾度か紹介したはずだが、《おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内臓もつを》という、せつなく、あまりに凄い一首を作っている歌人であり、買った。タイトルは『ぼく、牧水!』と、ちいーっと意味不明、サブタイトルは『歌人に学ぶ「まろび」の美学』となっていて、ほお。版元は角川書店で「角川oneテーマ21」のシリーズ。帯は「中也よりも啄木よりもずっと格好いい歌人がいた!」とあり、詩人の中原中也と詩人・歌人の石川啄木と〝格好のよさ”で若山牧水と比較するのは如何なもんか。むしろ、漂泊の度合い、歌人が人気商売であった希有な時代の一番目、酒と女好きの濃度で比べるべき、とちらり、考えてしまった。値段は本体781円。
 だけれども、中身は、新書的な軽やかさと核心の突き方で120パーセントの面白さに満ちている。だけではなく、ろくに勉強していない学者センセエの学術書よりは、きりり、伊藤一彦さんの、短歌における「奇数言語」の意味、「二句切れ・四句切れの魅力と三句切れの違い」という、説得力をもっての考えが登場する。
 牧水が人妻と不倫、密通、悲恋をなす女性とのプロセス、写真まで出てくる。時代を超えて当方も溺れたくなるような小百合さんほどの女である。なにより〝演技”と格闘する堺さんと、歌に殉じる伊藤さんの〝命とは何か”の交換がある。編集者も立派。売れてほしい。
(作家・歌人)







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