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評者◆阿木津英
「大勢に従う」短歌と近代日本人――メディアの劣化と短歌総合誌の現状
No.2987 ・ 2010年10月30日




 ネット配信誌「現代ビジネス」で、内田樹談「腐ったマスメディアの方程式――君たちは自滅していくだろう」を読んだ。著書『街場のメディア論』(光文社新書)は読んでいないが、同趣旨による談話と思われる。
 もう、まったく同感のことばかり。日本のメディア業界は新聞・テレビ・図書出版、いずれも極めて厳しい後退局面にあるが、それはネット台頭のせいではない、むしろ「従来型マスメディア自身の力が落ちたこと、ジャーナリストたちが知的に劣化したことで、そのためにメディアそのものが瓦解しようとしているのだ」とする。
 メディア劣化の状況は、わが短歌領域においても例外ではない。短歌総合誌がこぞって初心者向けHow toものになっていった時期があった。そもそも短歌総合誌は、歌人という特定層に向けたクォリティ・マガジンだった。結社を横断する機能をもつ短歌総合誌は、歌人たちが流派を越えて短歌は如何にあったらよいかと考える場でもあった。
 それが雪崩をうって初心者向け特集を組むようになったのは一九九〇年代以降、メディア一般の劣化の時期と重なるだろう。
 内田は、ヨーロッパから帰ってくると新聞のレベルがいきなり急低下するのでがっかりするという。メディア劣化の問題は日本だけのことではないかもしれないが、少なくとも西欧にはリテラシーの高い少数読者に向けて発信している新聞がちゃんと存在するのだ。
 短歌という末端部分に至るまで、これほど日本のメディアが雪崩をうつのは、「大勢に従う」というわたしたちの傾向があるからだろう。そして、文学領域のなかで、およそ短歌ほど「大勢に従う」すなわち「時代の空気を読む」に敏感な詩形はないと、わたしは実感している。
 品田悦一著『斎藤茂吉』(ミネルヴァ書房)は、「支那事変」勃発前後の斎藤茂吉が、「時代の空気を敏感に読」みつつ「稀代の奇書」と評するしかない『柿本人麿』を書き上げて帝国学士院賞を授与され、「国民歌人」「民族詩人」となっていく過程を剔抉した。
 「大勢に従う」短歌と近代日本人。この根底から考え直すクオリティある短歌総合誌の出現を俟つ。
(歌人)







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