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評者◆内堀弘
『彷書月刊』の終刊――この雑誌が編んだ三百の小さな物語の中で、書物は今もいきいきとしている
No.2983 ・ 2010年09月25日




 某月某日。『彷書月刊』が終刊になる。古本の世界では知られたリトルマガジンだった。創刊は一九八五年の秋。三百号の終刊まで毎号欠かすことなく特集を組んでいた。特集は多岐にわたっている。「六十年代短歌」「夢野久作」「日中戦争五十周年」「大正の女たち」「満鉄図書館」「大正モダニズム・ブックレビュー」「内村鑑三不敬事件」「早稲田古本屋界隈」「北園克衛」「へんな絵はがき」と、これは最後の二号にわたって掲載された総目次を見ているのだが、この小さな雑誌は、書物の世界から三百ものテーマを切り取ってきたのだった。リトルマガジンという言葉がこんなに似合う雑誌はない。
 古本屋という仕事は面白い。路面の一等地に店を構えなくても、充分な資力がなくても、一つの大切なテーマに沿ってオリジナルな本屋を作ることができる。この四半世紀、いろいろな古本屋が生まれ、根を拡げてきた。好きな喩えだが、それは大きな物語に回収されないいくつもの小さな物語が編まれるようだった。
 ところで、これは愚痴めいたエピソードだが、先日、ある図書館から戦時下に作られた外地の子供たちの文集に注文をいただいた。ガリ版刷の、もちろん当時のオリジナルの冊子だ。ところが、この裏表紙に子供の落書きがあるという理由で返品となった。まだ若い担当者は、おそらく「落書き」のある本は受け入れないというマニュアルに沿っただけなのだろう。私はなんだか寒々しい気持ちになった。
 いつ頃からか、書物をとりまく環境はたしかに寒々しいものになっていった。図書館や書店が、マニュアルに沿ってサービスを提供するだけなら、そこはただの「職場」でしかない。もう書物の「現場」ではないのだ。
 『彷書月刊』にはその現場感があった。この雑誌が編んだ三百の小さな物語の中で、書物は今もいきいきとしている。
 創刊の頃、私はまだ駆け出しの古本屋だった。この小さな雑誌を読みながら、古本屋ほど面白い仕事はないと幾度も思ったものだ。だから、終りの感慨は深い。終刊号には思いの外たくさんの原稿が寄せられ、発売日が九月末日に遅れるそうだ。ちょっと嬉しい報せだった。
(古書店主)







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