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評者◆伊達政保
汎アジア革命から世界革命への鍵を握る――安彦良和著(作画)『虹色のトロツキー』(全四巻、本体各二〇〇〇円、双葉社)
No.2982 ・ 2010年09月18日




 愛蔵版が出版されたのを機会に手に入れ、初めて一気に読み通した。安彦良和著(作画)『虹色のトロツキー』全4巻(双葉社)。著者はアニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインで知られるマンガ家である。91年から96年まで月刊「コミックトム」に連載され、全8巻として順次刊行(潮出版社)されていたのだが、初期ガンダムの底の浅い軍事スペース・オペラ的内容のため、題名に引かれつつも、オイラ著者の作品を不覚にも敬遠してしまっていた。00年には中央公論新社から文庫版として刊行されていたのだが、これまた買いそびれてしまった。そして今回、まさに三度目の正直であった。
 現在5巻まで刊行中の大河小説『満州国演義』船戸与一著(新潮社)に匹敵する大傑作である。満州国と蒙古独立運動をバックグラウンドに、日蒙混血の青年(マージナル・マンという視点)を主人公に据えて、昭和13年、満州建国大学入学から、昭和14年、満州国興安軍(蒙古人部隊)としてノモンハン事件で戦死?するまでを、膨大な情報量とその各々の展開による、構成の破綻をものともせず描ききっている。石原莞爾を始め、関東軍参謀・辻政信、大連特務機関長・安江仙弘、合気道創始者・植芝盛平、大本教・出口王仁三郎、川島浪速とその養女川島芳子、蒙古独立派パプチャップ将軍子息カンジュルジャップ(芳子の元夫)、ハルピン・ユダヤ民会会長カウフマン、元白衛軍セミョーノフ将軍、満鉄嘱託・尾崎秀実、そして満映理事長・甘粕正彦等、満州オールスター総出演だ(なぜか蒙古独立派を支援した伊達順之助は出て来ない)。
 ストーリーは、建国大学教授に亡命者であったトロツキーを招聘しようという構想(事実あった)から、満州ユダヤ人自治区を拠点に沿海州をソ連から切り離し、蒙古を独立させソ連を二分しようという辻の対ソ戦略に翻弄されながらも、民族独立のために闘おうとする青年を、ロマンを交えて描いている。詳しくは本書を読んでもらうしかないが、所謂「大東亜共栄圏」が提唱される以前に、この地域が汎アジア革命から世界革命への鍵を握っていたと言っても、過言では無いとオイラは思っている。
 辛亥革命後、外蒙古、独立。中国東三省(満州)は満蒙独立運動敗北後、軍閥割拠。ロシア革命起こり沿海州にも革命政権。これに対し白衛軍を支援し干渉戦争(シベリア出兵)。外蒙古、ソ連邦の一員となる。これに対し反共満蒙独立運動。満州事変により満州国成立。日中戦争そしてノモンハン事件。関東軍、コミンテルン、陳独秀の中国共産党、国民党、それぞれの思惑が四つ巴となって絡み合った時代だったのだ。
(評論家)







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