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評者◆秋竜山
猫ってニャンダフル、の巻
No.2981 ・ 2010年09月11日




 クラフト・エヴィング商會、井伏鱒二/谷崎潤一郎他『猫』(中公文庫、本体552円)は、〈猫を愛した作家たちが綴った珠玉の短篇集。〉〈本書は単行本『猫』(一九九五年 中央公論社刊)を底本とし、新たにクラフト・エヴィング商會の創作・デザインを加えて再編集した『猫』(二〇〇四年七月 中央公論新社刊)を文庫化したものです。〉昔の猫好き作家が、昔の猫を書いたものだ。猫は昔も今も、あいかわらず、かわいいものである。と、猫好きはいうだろう。本書の猫よりも、もっと昔の、たとえば江戸時代の猫もかわいさにおいては今と、かわらないと思う。猫の動作を見て、かわいいことはかわいいが、泣きたくなるほどかわいいということはあまり感じないが、子猫のかわいさといったら、あまりのかわいさに、もうどうにもならなくなってしまうものだ。人間の赤ちゃんもかわいいことはあたりまえであるが、その赤ちゃんも、子猫ほどの大きさの赤ちゃんだったらどんなものかと考えてみたりもするが、それは考えるべきことではなく、くらべることでもないだろう。本書における著者をみると、小説家では 有馬頼義、井伏鱒二、大佛次郎、瀧井孝作、谷崎潤一郎、壺井榮。洋画家 猪熊弦一郎。翻訳家 尾髙京子。評論家 坂西志保。物理学者、随筆家 寺田寅彦。詩人、民俗学者 柳田國男。と、大家ぞろいのエッセイである。どの作品も、子猫のことが書かれてある。
 〈猫嫌いの妻も、二匹の子猫がじゃれ合っているのを見ると、可愛らしいと思うらしく「いつまでもこんな小さいままだといいわねえ」と言ったりした。――有馬頼義〉〈世の中に子猫ほど可愛いものはない。天国では誰も年をとらないというから、死んだら私は子猫の天国へ行きたいと思っている。――坂西志保〉〈小猫のつき纏う風景は、チョロチョロしてうるさいやうでも、また私共の心持のほぐれる慰めにもなった。何かにじゃれたり、ゆっくり歩いたり、うづくまったり、睡ったり、その時時の姿も絵模様を描いてゐるやうにみえた。――瀧井孝作〉〈人なつっこい丸い鉤のような目は猫の器量を決定づけていたのに、全然物おじをしないことも一そう猫への愛情をそそった。――壷井榮〉〈今でも時々家内で子猫の噂が出る。そして猫にも免れ難い運命の順逆がいつでも問題になった。此の間近所の泥溝に死んで居た哀れな野良猫の子も引合ひに出て、同じ運命から拾上げられて三毛に養はれ豊かな家に貰はれて行ったあのちびが一番の幸福だといふものもあれば、御隠居さんばかりの家に行った赤が一番楽でいいだらうといふものもあった。妻は特に可愛がって居た太郎がわりに好運でなかった事を残念がって居るらしかったが、――寺田寅彦〉(本書より)
 どれもこれも、子猫をみたらどうにもならなくなってしまうことのようだ。子猫の運命は、母親と一緒にいることができないことだ。どこかへ処分させられてしまうのである。ところで、メス猫は、しょうこりもなく子猫を産み続ける。責任は誰にあるか。オス猫のしわざではなかろうか。オス猫さえいなかったら、子猫の悲劇もうまれないだろうに……。そんなことをいうと、「お前は本当の猫の世界がわかってない」と、いわれそうだ。







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