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評者◆秋竜山
わかったつもり?、の巻
No.2978 ・ 2010年08月14日




 「わかった」と言われると、たのもしく思える。ところが「わかったつもり」と言われると、「つもりか……、ウーンつもりねえ」となる。「大丈夫です。わかったつもりですから」と言われても、考えものだ。そして、「わかった」という強い口調もウソッぽく思えてくるから不思議だ。西林克彦『わかったつもり――読解力がつかない本当の原因』(光文社新書、本体七〇〇円)。わかったつもりという状態を面白がるセンスがある人は、この「わかったつもり」という本書のタイトルを見ただけで何が書いてあるか興味を持つだろう。日本語の面白さだ。読まなくても「わかったつもり」はないだろう。
 〈この本は、文章をよりよく読むためにどうすればよいのかを述べたものです。実は、よりよく読もうとするさいに、私たち読み手にとって最大の障害になるのが、自分自身の「わかった」という状態です。〉(本書より)
 確かにそーだ!! 私自身、すぐ「わかった」と感じてしまうのが、推理小説であるが、実は、ちっともわかっていないのであって、「わかったつもり」の繰り返しで、結局は、最後に犯人を知らされて、「なるほど」と感心させられるのである。読んでいて読者がすぐ犯人がわかってしまうような推理小説などあろうはずがなかろう。そんな推理小説など本になどしないだろう(そういう推理小説も読んでみたいと思うのだが。ホーラ、やっぱり私の言った通り、犯人はコイツだった。なんて推理小説が読めたら、さぞかし胸がスキーッとして推理小説のダイゴ味はここにあり!! と思えてくるだろうに……ね)。推理小説は「わからせないように」ストーリをつくり上げていく。それが面白いという読者が多いというのだ。
 〈「わかった」状態は、よく言えば一種の「安定」状態なのですが、逆の言い方をすれば「停滞」状態なのです。「わかったつもり」から「よりわかった」へ到る作業の必要性を、本人が感じない状態でもあるのです。「わかったつもり」は、このような意味で、かなりやっかいな存在です。(略)しかし、「わかる」から「よりわかる」うえで必要なのは、「わかったつもり」を乗り越えることなのです。「わかったつもり」が、そこから先の探索活動を妨害するからです。〉(本書より)
 「アア……、わかったつもりだったがなァ。結局は、なーんにも、わかっていなかったんだ」というのが正直な気持かもしれない。大きく出たところでは、「しょせん、人生などというものは、そーいうものかもしれませんよ。わかったつもりこそ人生ですよ」なんて、ね。
 〈「わかっている」けれど「大雑把」――通常これが私たちの一読後の状態です。すなわち、私たちは、一読後は、まず「わかったつもり」の状態にあるのです。(略)まず、自分は「わかっている」と思っているけれど、「わかったつもり」の状態にあるのだ、と明確に認識しておくことが必要です。すなわち、今は見えていないけれど、必ずもっと奥があるはずだと認識しておく必要があるのです。〉(本書より)
 「ハイ、わかったつもりです」という言葉には奥が深い、ようだ。







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