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評者◆伊達政保
独自取材でオトシマエを追及し続ける――石飛仁著『花岡事件「鹿島交渉」の軌跡』(金子博文解説、本体二八〇〇円、彩流社)
No.2978 ・ 2010年08月14日




 昭和46年、平岡正明、朝倉喬司、石飛仁等の取材グループにより、中国人強制連行及び虐殺の共同調査が開始された。その調査に基づき、平岡正明著『日本人は中国で何をしたか――中国人大量虐殺の記録』(昭和47年)、平岡正明編著『中国人は日本で何をされたか――中国人強制連行の記録』(昭和48年、共に潮出版社刊)、石飛仁著『中国人強制連行の記録――花岡暴動を中心に』(昭和48年、大平出版社刊、1997年改訂版、三一書房刊)が出版された。同時並行して元台湾人軍属楊明雄軍事郵便貯金支払要求闘争、続いてミクロネシア軍属ポナペ決死隊遺族補償要求闘争が、前述の調査グループやオイラも加わって闘われた。現在の戦後補償要求闘争の端緒とも言うべき闘いであった。
 そうした動きの影響を受け、東アジア反日武装戦線(メンバーの一人、逮捕時服毒自殺した斎藤和君は調査グループの一員)は、戦前戦後の日本帝国植民地主義に対するオトシマエを、連続企業爆破という形で展開していったが、1975年一斉逮捕されてしまった。その一方で、「花岡事件」の独自取材を続けていた石飛仁は、彼らとは違った形でのオトシマエを追及し続けていった。その結果が今回石飛仁著『花岡事件「鹿島交渉」の軌跡』(金子博文解説、彩流社刊)として纏められたのである。
 「花岡事件」とは、第二次世界大戦下、日本政府の閣議決定により、四万人の中国人が「労工」として日本各地に連行され、敗戦直前1945年7月1日、秋田県花岡鉱山鹿島組に「雇用」されていた約八百人が飢えと虐待から一斉蜂起、日本人補導員等五人を殺害して脱走、延べ二万人の鎮圧隊と戦闘の末、包囲拘束され、その結果四百十九人が犠牲となった事件であり、敗戦後の中国人、朝鮮人反乱の魁となったものである。
 この事件に対し中国人生存者等が、加害者責任による損害賠償請求を訴えようにも、1972年国交回復による「日中共同声明」で『戦争賠償放棄』が明記された以上、展開は望めない。よって閣議決定により行われた正規契約労働者として、1984年鹿島建設に対し、石飛仁等は未払い賃金請求の交渉を開始していった。一方で小劇団「事実の劇場」を結成、報告劇『中国人強制連行の記録』を花岡現地を含む各地で上演、事件の情宣活動をも行っていく。
 しかし、戦後補償の運動を重視し、裁判闘争を展開しようとする弁護士、学者グループと、交渉は分裂。以後の経過は本書にゆだねるが、鹿島建設との交渉は慰霊碑の建設、「花岡平和友好基金」設立で2001年和解、慰霊祭も行われた。最高裁では日中共同声明の戦争賠償放棄に基づき、2007年敗訴となってしまった。
(評論家)







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