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評者◆秋竜山
へその緒の絆、の巻
No.2974 ・ 2010年07月17日




 母が亡くなり箪笥の奥から新聞紙につつまれた、へその緒。男三人兄弟、思いもよらないものに出会った感じだった。三人とも心の中で泣いた。へその緒は黄門さまのインロウのようなものであって、これを見せつけられると、たとえどのような人間であろうとも額を地べたへ「へへーーッ」と、こすりつけずにはいられないものである。又、それ程のイリョクがある。そして、愛しく哀しいものでもあるのだ。そのようなものを残しておいてくれたことに驚きでもある。武村政春『おへそはなぜ一生消えないか――人体の謎を解く』(新潮新書、本体六八〇円)の、タイトルを見ただけで、手に取ってしまう。〈おへそ〉という文字があるからだ。トッサ的に、自分の〈へそ体験を思い出したから〉かもしれない。
 〈おへそはお腹の中心にあるし、また頭のてっぺんからつま先までの、だいたい中間にある。古来、子どもが生まれると、そのときの「へその緒」を大切にしまっておく風習が日本にはある。母親と子どもをつないでいた命の綱は、生物学的なつながりが切れて子どもが自立した一個の生物になった後も、親子の精神的なつながりを保ってきた。〉(本書より)
 おへそを見て何を思うか。母親をみて何を思うか。まさか、おへそを思うとまではいかないだろう。そして、母とおへその話をしたこともなかったし、へその緒のこともない。〈人間の一生とは、老化を甘受しつつ、これに抗い、死に向かって突き進むことに他ならない。いずれは肉体の破滅が待っていることがわかっていながら、不思議なことに私たちの体は、生まれ出でた証としての「おへそ」を一生、体の中心に持ち続けるのである。まるで、死を拒絶して、いつまでも「生」に執着し続けているかのようではないか。〉(本書より)
 なんともいい文章である。「まさに、その通りです」と、口に出てしまうような。あらためて、自分のおへそを見てみたくなってくるではないか。
 〈へその緒は、その文化的特性から、母親の体と直接つながっているかのように誤解している方もいるかもしれないが、実際はそうではない。へその緒がつないでいるのは正確には「胎児と胎盤」であり、胎盤は、少なくともその胎児側の部分は、母親ではなく「胎児の一部」である。したがって「へその緒」は、母親の胎内にいた時のという但し書きはつくにせよ、あくまでも「胎児の一部」に過ぎないと言える。(略)へその緒をたどっていくと、母の体へとつながり、さらにその母の体は祖母の体へとつながっていく。〉(本書より)
 母は強し!! である。そして、残念なことに、父は弱し!! である。いったい父は父親として、子にむかって、どう説明すべきかだ。母親は無言で「へその緒」によって語ることができる。父親はどうか。「へその緒」を子供たちの前に置き、何をどのように語ってよいのかわからないだろう。父親の無言は母親の無言とあきらかに違うものだろう。「お父さん黙ってないで、何かいってよ!!」と、子供にいわれて、「うるさい!! 子供は黙って、ひたすらに「へその緒」を見ていろ!!」なんて、いえないいえない。その場をうまくすり抜けるしかないだろう。







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