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評者◆小嵐九八郎
惑星探査機より凄い――穂村弘著『絶叫委員会』(本体一四〇〇円・筑摩書房)
No.2974 ・ 2010年07月17日




 煙っぽい川崎の、旧宿場町というか旧遊郭の近所に住んでいる。さびれゆく愛する街なのであるが、なぜか少年時代から途中で立小便をしたくなる雰囲気が漂っている。いざしようとすると「 」、つまり鳥居の形がした禁止印とか「卍」か「卐」だろうかまんじが立て札にあり、幾度繰り返したのかね、それでも懲りない、ぎょっとして中止してしまう。
 当方のパブロフの犬みたいな記号についてのつまらん話ではなく、日常の会話や街角のポスターなどの言語の、偶然性によるポエム、あるいはそこにある言語の女陰より深い溝と謎の発見で、読み手が、顔が引き攣って痛くなったり、にたにたしたり、笑い転げて気管支が悲鳴をあげたあげくに脂汗を掻く本に出会った。
 穂村弘氏の『絶叫委員会』(筑摩書房、本体1400円)である。えっ、穂村弘氏を知らない? 《体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ》と二〇年前の処女歌集『シンジケート』で歌った歌人である。ちょいと蓮っ葉な言葉の使い方の絶妙さは、俵万智さんの歌のブンガク的なショックを越えて完成の場に立っているし、恋人(?)との実にリアルなやりとりの古い世代をも巻き込んでしまう情、なにより、この歌の以後をそのほかの歌人が作れないだろうところに追い詰め、困るのだ。えっ? ジーンとか、スマートさの中の土の匂いとか、調べとリズムの軽快さの上での寸詰まりのやるせなさが解らない? 娯楽作家で、人民迎合主義者の九八郎が言うのも酷いが、そういう人は、あのう、そのう、俺と同じでアナクロニズムになってしまい、歌道は、しんどいですぜえ。
 穂村弘氏は、多才。というより、全てのジャンルへと羽ばたくパワーと必然を内包していて、絵本の翻訳、童話、評論、エッセイとボーダーを越え、楽ちんにやっておるらしい。
 あ。書き忘れた。紹介した『絶叫委員会』は、実は、言語が、関係性、場所、場合、時によって、女陰より、宇宙から迷いつつ七年振りに帰った惑星探査機より凄いと示しているのだ。
(作家・歌人)







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