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評者◆秋竜山
鼻先三センチの世界、の巻
No.2972 ・ 2010年07月03日




 複雑過ぎると、どーなるのか。「混沌」としてくる。あいつ、複雑な奴だ!! とは、混沌な奴だ!! と、いうことになるのか。池内了『物理学と神』(集英社新書、本体七四〇円)を読むと、「複雑」が出てくる。
 〈カオスはギリシャ語で「混沌」を意味し、「秩序」を意味する「コスモス」と対になっている言葉である。カオスが生じるのは、その系がさまざまな要素が多重に入り混じって構成されており、要素一つ一つの効果はわかっていても、それが組み合わさって起こる物理過程が複雑過ぎて結果が予測できないからだ。一般に、このような系を「複雑系」と呼んでいる。〉(本書より)
 「風が吹けば桶屋が儲かる」という有名な話がある。桶屋というから昔の話だろう。知らない人はいないくらい昔は有名だった(今は知らないけど)。そんな有名過ぎるくらい有名でありながら、最後まで話せなかったりする。
 〈「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話に似ているが、もっと複雑な関係を考えるのが複雑系である。風が吹いて家が倒れたら材木屋が儲かり、それで材木屋が茶屋遊びをするから三味線の需要が増え、三味線の皮に使われてネコが減るからネズミが増え、増えたネズミが桶をかじるから桶屋が儲かるという連鎖は、いわば直線的な相互関係でしかない。〉(本書より)
 これを複雑系に考えると、
 〈まず、風が吹いて家が倒れると家ネズミにも被害が及ぶだろうし、桶も壊れるだろうから桶屋も初めから儲かるはずである。最近では三味線にネコの皮を使わなくなったし、ネコはネズミを捕ろうとしなくなっている。それどころか、ネズミは栄養にならない桶をかじらず、もっぱら残飯漁りで太っている有様である。〉(本書より)
 つまり、〈個々の要素の時間的変遷や相互関係の変化も含めれば、この連鎖話はまったく違ったものになってしまうだろう。〉
 「バタフライ(蝶々)効果」というのがある。これも複雑系だ。
 〈蝶がひと舞いすると、たとえ小さいとはいえ空気の流れが生じるから、偶然のゆらぎが空気に与えられることになる。通常なら、そのゆらぎは空気の粘性のためになんの痕跡も残さず消えてしまう。しかし、ある種の条件が満たされているとき、この空気の小さな流れによって周辺に風が引き起こされることもあるだろう。さらに、この風が周囲の日照条件や気圧配置によって、いっそ強い風に発達するかもしれない。〉
 蝶のひと舞いをみていると、ヒラヒラがハリケーンにまで発達してしまうのだ。一寸先は闇だ。三センチ先は闇ということになる。鼻先三センチは手さぐりでもわからない。まったく予測できないのだ。つまり、鼻先三センチの誰もが予測できない闇の世界を誰もが持っているということだ。街に出ると人でごったがえしている。皆、鼻先三センチを持っているのである。闇に向って進んでいるのであるが、恐ろしいけど、進まないわけにはいかない。鼻の高い人は低い人より先を進んでいるのだろうか。もし、そーだとしたら、人はこぞって鼻を高くするだろう。一寸待て、考えなおせ!! とは、これからきているのか。……まさか。







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