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評者◆鴻農映二
たった一字で、詩の全文!――成贊慶の新詩集『陽』の衝撃
No.2970 ・ 2010年06月19日




 アガサ・クリスティーの「アクロイド殺人事件」は、そのトリックが一回きり有効なことで知られる。他の者が真似したら、バカにされるだけだ。
 今回、成贊慶(ソン・チャンギョン)が出した九冊目の詩集『陽』は、似たような意味で、「あっ、その手があったか!!」と、他人をくやしがらせる発見だ。どんな内容かというと……
 ページを開く。見開き2ページの左側の隅にただ一文字、記されているだけ。あとは白紙(余白)だ。全103編のうち、33編が一字だけ。あとは、脚注、乃至は詩作ノートにあたる数行が別のページに記されている。
 103編なら、103字、つまり、全作品、この欄で紹介できる。ちょっと、やってみようか。
 「陽」「月」「星」「光」「夜」「柿」「舌」「力」「夢」「空」「道」「乳」「紐」……
 しかし、これでは、ちっとも面白くない。やはり、砂漠を想わせる白いページの背景があってこそ、充分な鑑賞が可能だ。
 「手」という詩の脚注は、「道具の中の最高の道具が手だ。名工の腕前。エデンの園でリンゴを摘む手。手の中に運命がある」となっている。これら脚注のあるページがあるおかげで、ただ一字だけのページも意味が充満しているように感じる。詩「粋」の脚注は、「粋は心の味」だ。詩「傷」は、「些やかな欠点だ。傷のない人間はいない」だ。
 いま、便宜上、漢字で伝えているが、漢字に相当する部分の原文は、韓国固有語の一字だ。「ひ」「め」「せ」というニュアンスが近い。「月」は漢字だと一字で訳せるが、ひらがなだと、「つき」と二字になってしまう。
 成贊慶は、詩集の後記で、「一字詩は、50年にわたって自分が追求してきた密核詩論の終局的まとめだ」とし、「密核詩は、詩に最大限の意味と密度を盛ろうとするもので、一字詩から字数を削ると、詩は消滅する」と述べる。また、「一字詩には広い空間が必要で、一字と余白の対話は、文学と美術の融合」だとしている。
(韓国文学)







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