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評者◆秋竜山
ねじの回転、ねじ回し式、の巻
No.2969 ・ 2010年06月12日




 〈ねじ〉は哀しい。〈ねじ〉だけあっても用を足さない。〈ねじ回し〉だって、哀しい。〈ねじ回し〉だけあっても用を足さない。夫婦にたとえると、どっちが夫か、どっちが妻かしらないが、どっちが強い弱いの問題でもなかろう。ヴィトルト・リプチンスキ著、春日井晶子訳『ねじとねじ回し』(早川書房、本体六〇〇円)。〈この千年で最高の発明をめぐる物語〉というサブタイトルがついている。それが〈ねじとねじ回し〉ということか。〈本書は、二〇〇三年七月に早川書房より単行本として刊行された作品を文庫化したものです〉と、記されてある。〈ねじとねじ回し〉などと、ユーモア小説のタイトルにしたくなるような、ユーモラスでもある。「いや、たしかに、そーいえば、そーだよ。〈ねじ〉だけでは駄目だし、〈ねじ回し〉だけでもいかん。〈ねじとねじ回し〉でよいわけだが、あたり前過ぎるほどあたり前ではあるが、なぜか可笑しいムードがあるね」ということか。
 〈ねじ回しの起源を調べる作業は、オックスフォード英語辞典を調べることから始まった。OEDによれば、「ねじ回し」の最初の用例は一八一二年に出版された「職人の練習」というタイトルの本に登場する。(略)本の最後についている定義集には、こう記されている。「ねじ回し――ねじを留める道具」なるほど、単純きわまりない。〉(本書より)
 たしかに〈ねじ回し〉はねじを留める道具であるから、はぐらかされたような単純きわまりないものだとしても文句はいえない。もっと複雑に説明せよ!! というのも変な話だし、「知ってるくせに!!」と、いわれるかもしれない。〈ねじ〉とはどういうものであるか誰もが知っている。そして〈ねじ回し〉も知っている。
 〈何世紀ものあいだ、ワインボトルは木の栓をして密封されていた。一六〇〇年代半ばになって、主にスペインとポルトガルに生えているコルク樫のしなやかな外皮を使えば、良い栓ができることが発見されたのだ。とはいえ、新しく、ボトルの口にぴったりはまりこんだ「コルク」を引き抜くのは大仕事だった。だれか――おそらく喉を渇かせた指物師――が、ティール・フォンをコルク抜きにすることを考えついたのだろう。手持ちの古いフランス語辞典によれば、ティール・ブションという言葉が最初に使われたのは一七一八年で、英語にコルク抜きが登場する二年前のことだ。ふと、コルク抜きこそこの一〇〇〇年で最高の道具――だれも賛成してくれるにちがいない――と決めかけたが、もう少し調査を続けることにした。〉(本書より)
 コルク抜きは、まさに、ねじ回しである。〈ねじ〉と〈ねじ回し〉の関係は、回転を変えることによって、ねじをねじ込んだり、抜いたりする作業であるが、コルク抜きは、グルグル回してコルクの栓に押し入れていって、その後は素早く、「スッポン」と、音を立てて、コルクを抜きとるという作業である。その成果は、腕の見せどころである。不器用さが、あまりにも目だってしまうこともある。〈正しい、ねじ回しの使い方〉などという本もあってもよいのではなかろうか。







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