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評者◆前田和男
第80回 連載を終えるにあたって(1)
No.2969 ・ 2010年06月12日




 これをもって、本連載に一区切りをつけることにする。最後に「まとめ」を記して、二年にわたるご愛読に感謝の意を表したい。
 連載をはじめるにあたって、本稿の目的を次のようにのべた。

 「政治状況が極限までねじれたいま、確実に「D・DAY」が近づいていることは誰の目にも明らかである。(中略)そこで危惧されるのは、「そのとき」が近づけば近づくほど、高くて大きな所から「大きな物語」が語られるいっぽう、伏流水のなかにある「小さな言葉」は無視されてしまうことだ。つねに歴史は勝ち残ったものたちの歴史である。しかし、近々訪れるであろう「政治的大変」の未来を歪めず豊かにするためには、伏流の中にこそ声を聞かねばならない。(中略)本連載では、来るべき「政治的大変」を準備してきた伏流水のなかに「わだつみの声」を聞きあつめながら、「政治的大変」がどこからきてどこへいこうとしているのかをしかと見定めたい。そして、それを高くて大きな所にいる「大政治家」たちにもぶつけてみたいと思う。」

 この目的に向って、「政治的大変」を用意した「伏流水」を順次たずねはじめたが、その途次、連載を開始して一年二か月後の二〇〇九年八月末に、日本の近代政治を画する政権交代が成立、指摘したような「伏流水」がかき消される危惧が現実となり、本稿の意義を改めて強く自覚しながら連載をすすめて今回に至った。
 ここで一区切りをつけることにしたのは、政権交代を準備した主たる伏流水を探りあて、「わだつみの声」を聞き集めることができたと思われるからである。改めて本稿で紹介した政権交代への「伏流水」たちを、出自によって時系列的に整理しなおすと、以下のようになる。
 政権交代へ向かう流れは、一九五五年の吉田茂内閣以来つづいてきた「保守三分の二、革新三分の一」の「戦後政治の城内平和」のゆらぎの中から、保守と革新の両側で生まれた。まずは革新の側だが、すでに一九七〇年代から社会党の「本流」に胚胎していた。本稿では、ある場面では理論武装家、ある場面では演出家、ある場面では脚本家の役をつとめた日本女子大学名誉教授の高木郁朗による三十余年にわたる仕掛けとそこから生じた伏流水を紹介した(連載31~50回)。
 かたや党内若手からも伏流水が湧出した。九〇年一月第三九回衆議院選挙で、社会党は前年の「反消費税」の土井たか子ブームの余韻をうけて大躍進。自民党を上回る六〇名もの新人議員が誕生したが、その若手たちから「ニューウェーブの会」という「党改革運動」が生まれる。それは後の「シリウス」などの党を超えた新党運動・政界再編の震源地となるが、その仕掛人の一人、松原脩雄を語り部にその検証を行った。(連載2~7回)
 社会党を超えて労働組合や首長などの連携を模索した伏流水も探った(連載51~55回)。語り部は党内最右派・江田派の活動家で社会党を早々と「脱藩」した仲井富。仲井は社会党委員長の田辺誠と連合初代会長の山岸章の「特使」として党内外を横議横行し、政党の枠組みを超えた政権交代のための「首長連合」を工作。それは一九九〇年代前半に、横路北海道知事、平松大分県知事、長洲神奈川県知事、細川前熊本県知事、武村前滋賀県知事ら七人による「殿様連合」構想を生み、新党運動そして今回の政権交代にもつながった。
 こうした社会党内外から生じた新党運動への伏流水に対して、ブレーキをかけようとする反動もあった。その「A級戦犯」とされるのが村山自社さ政権だが、首相首席秘書官をつとめた河野道夫の証言を通して、その真偽と功罪についても検証を深めた。(連載56~63回)



 いっぽう、五五年体制の自民党の側からも伏流水が生まれた。
 ひとつは、保守生まれには稀れな理念型の政治集団、新党さきがけである。そのさきがけにあって、もっとも「理念型」、つまりさきがけの精神をよく体現していた同党新人衆議院議員の錦織淳を語り部に起用。「政治は小説よりも奇なり」を地でいった五五年体制の最後の申し子、竹下登元首相との一騎打ちを読み解いていくなかで、「さきがけとは政界再編にとって何であったのか」を明らかにした。(連載18~30回)
 ふたつめは日本マッキンゼー会長をつとめる大前研一によって設立された「平成維新の会」である。道州制・規制緩和を機軸にすえ「「国家主権の国」から「生活者主権の国」へ」を提唱。それを実現するために、政党・党派を超えて議員を格付けによって選別、彼らに分野別の議員立法を行わせるという、当時マスコミを大いににぎわせながらいまはすっかり忘れ去られてしまったこのユニークなネットワーク運動の意義について、二代目事務総長の三浦博史の証言によって光を当てなおした。(連載8~17回)
 保守からの伏流水の最後は日本新党である。いま政権交代によって日本新党に俄かに注目が集っている。それは前原誠司、野田佳彦、枝野幸男など民主党の要路を日本新党出身者がしめ、また束の間であれ日本新党は政権交代を担ったことで、その「成功と挫折」、「功と罪」が今後の政権交代の行方を占う先行事例となるからだろう。この日本新党の政策ヴィジョン作りを「参謀」として支えた中曽根臨調ブレーンの一人、金成洋治の証言によって、日本新党発の伏流水を探った。(連載64~79回)
 なお、小沢一郎の新進党も保守生まれの伏流水を生じたが、これについては社会党から新進党に転じた松原脩雄の項で、また新進党に合流する日本新党の金成洋治の項でふれた。こうして本連載によって、今回の政権交代を準備した伏流水をほぼ探り当て、政権交代へのオデッセイの「下図」を描くことはできたのではないかと自負している。
(文中敬称略)
(ノンフィクション作家)







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