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評者◆小嵐九八郎
ひとすじ縄ではいかぬ、詩的な小説――パステルナーク著、工藤正廣訳『リュヴェルスの少女時代』(本体二〇〇〇円・未知谷)
No.2969 ・ 2010年06月12日




 新約聖書の『黙示録』みたいに、よく解らないけど謎解きをしたくなるような、でも『黙示録』よりはまるで詩的な小説に出会った。『リュヴェルスの少女時代』(工藤正廣訳、未知谷、本体2000円)である。作者はあのボリース・パステルナーク、一九一八年の作である。つまり、赤色ロシア十月革命が起き、いまだ熱い時代の小説である。
 あのパステルナークといっても今の若い人にはピンとこないかも知れないだろうが、元元は詩人、十年がかりで『ドクトル・ジバゴ』を書いたがソ連では掲載を拒まれ、イタリアで出版、一九五八年ノーベル賞の指名があり、しかし、ソ連内で大批難、作家同盟からも除名され、辞退。ここいらは、俺も中学生だったから知らないわけで、『新潮世界文学辞典』の江川卓の文を参考に記している。ま、当方は一九六六年に学生運動にのめり込んでいくが、ソ連ってやっぱりスターリン以後、人類の桎梏体制でしかなかったのかなと、ソ連批判をきっちりしていた救いがあったというか、吐息がなお出るというか。
 こういう騒ぎの上で、一九六五年、『ドクトル・ジバゴ』はイギリスで映画化され、俺達、いや、正確にいうと俺と恋人、つまり今のかみさん殿と観たのが一九六七年。BGM、革命家が反革命へとそれる場面、主人公の淡い生き方と、ついつい恋人の手を映画館で握り、恋人も許してくれた記憶がある――どうも、この場面を、かみさん孝行のために、否、償いのせいか、何度もいろんなところで書いてしまっている。
 この『リュヴェルスの少女時代』は、詩による小説への挑戦みたいな中身で、かなり、じっくりと読むことを求められる。でも、少女、というより人間としての大人へのプロセスが、幼い時の〝外”、旅による〝外の人”、友達、自分の罪でないのにくる〝外からの不幸”を引き受けるしかない原罪意識への辿り着きと、なかなかひと筋縄でいかぬ内容なのである。
 訳者の工藤正廣氏は、パステルナーク詩集全七巻の訳業(未知谷)を完成させている頭を垂れるしかない詩人、小説家、学者である。もしかしたら、ロシア人より……。








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