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評者◆秋竜山
筆まめな藤田嗣治、の巻
No.2968 ・ 2010年06月05日




 林洋子『藤田嗣治――手しごとの家』(集英社、本体一一〇〇円)では、
 〈この本では、これまでほとんど知られることがなかった、藤田の「画家」以外の側面をご紹介します。「絵画制作」という仕事の合間を縫って、身のまわりの日用品を手づくりし、パリの蚤の市や旅先で各国の職人仕事を買い集め、自宅を自分好みに、まるで彼の作品のように古今東西を異種混淆しながら装飾していった藤田。その仕事場では、画作だけでなく、染色、裁縫や木工といった手しごと、写真撮影、そして日記や手紙などの書きものが進められ、たいへん濃密な時間が重ねられました。〉(はじめに、より)
 つまり、マメな芸術家であったということだろう。〈たいへん濃密な時間が重ねられました。〉とあるが、それにはマメ人間でなくてはならないだろう。そこでフッと考えたのは、濃密な人生とはなんぞや、ということだ。たとえば、自分自身が、「俺の人生をふりかえってみて、実に濃密な時間が重ねられた」と感じとった。としたらどうだろうか。どうだろうかというのは、他人がみて、「なにいってんだい!! グータラな人生であって、濃密どころか、なんにもない人生だったよ。お前は」と、いわれた時、どう、とらえたらよいのだろうか。「自分が濃密だと思っているんだから濃密でいいじゃァないか、他人がとやかくいうことはない」。しかし、誰がみても彼の人生は濃密なんてものではなかった。どっちを信じたらよいのだろうか。自分の人生は他人が評価してくれるというものか。これは本書とはまったく関係ない私のつぶやき。
 〈藤田はとにかく筆まめで、歴代の妻たちや友人、パトロンたちへの手紙が近年世界各地で確認されています。手紙を受け取った者たちが大切に取り置いたものが、美術館などに寄贈されたり、オークションに出たりしているのです(残念ながら、藤田への来信の行方は不詳です)。〉(本書より)
 たのしいのは、
 〈多くの手紙がイラストを添えた「絵手紙」となっています。太平洋戦争中の日本で、知りあいの日本画家・山口蓬春に送った手紙にも、白髪になっても意気軒昂な自画像(一九四二年三月十四日付)や、アトリエで蚊取り線香をたきながら「作戦記録画」に取り組む姿(同年十月三日付)を描いています。〉(本書より)
 どちらのイラストもマンガに近いものだ。もしかすると、藤田のどの芸術作品よりも、この絵手紙が藤田そのものを表現できているのではないかとさえ思えてくる。藤田がいかにマメであったか。日記がある。
 〈ニューヨーク滞在中につけた二冊の日記、君代夫人のもとには、この二冊を含め、一九四七年以降、最晩年までの画家の日本語による日記が残されていました。〉(本書より)
 それ以前にも日記をつけていたという。〈食事のメニューをつけたノート〉というのもある。〈「旅の時代」のスクラップブック〉や〈カメラ〉とか。藤田といったら、なんといっても猫だろう。〈自画像・1936年、油彩〉では、自分のふところの中から子猫が顔をのぞかせている。







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