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評者◆秋竜山
音に出して鼻をかめ、の巻
No.2967 ・ 2010年05月29日




 こーいう本は読んでおいたほうがよい。知っておいたほうがよいということだ。陶智子『日本人の作法』(平凡社新書、本体七六〇円)。
 〈「礼法」とは「礼儀作法」を略したいい方である。「礼儀」は、手短にいえば「相手を敬い、思いやる心」であり、それをどのように表現するかが「作法」。礼法とは、相手を思いやる心の表現方法なのだ。〉(本書より)
 礼法といえば、すぐ小笠原流というのが頭に浮ぶが、その小笠原流がどのような作法をもってするものか、まったくわからない。何流であろうと、人前で恥をかかないほどの作法は知っておくべきだろう。
 〈戦後は、国家基準的な礼法はなく、様々な礼法書が出版されているというのが現状である。そこで本書では、明治時代以降に出版された礼法書を取り上げ、日本人がどのような礼法を近代以前から受け継ぎ、またどのような礼法を新たに創造したかということについて考えてみたいと思う。〉(本書より)
 本書では、品格ある身の処し方のお作法として「鼻をかむ心得」というのがある。もちろん人前でである。ひとりの時どのように鼻をかもうと自由にお作法したらよいだろう。が人前ではそーはゆかない。
 〈上輩の前にては次の間へ立てかむべし。立れざる場合なれは下座へ向ひ少し低くかみて鼻をぬぐひをくべし。同輩は下座へ向ひかむべし。すべて鼻をかむには低く短くかむべし。高鼻をかむは失禮なり。平生に斯く仕習べし。又あくびのびつばきはく事などは人の前にて堅く愼むべし。―(『小學女禮式訓解』髙橋文次郎編・博文館・明治十五年初版〉(本書より)
 鼻をかむのに立派なお作法がある。念入りに鼻のかみ方を指南している礼法書もある。昔の人はそうやって鼻をかんだというのが、
 〈●貴人の前に鼻をかむ事。次へ立てかむべし。若たゝれざる時は下座うしろのかたに向ひ低くかみて鼻をぬぐひおくべし。すべて鼻をかむにははじめ少しひくゝ短くかみ次に少し高く次にはじめのごとくひくゝ三度にかみ切るべし。(『男女躾方圖画手引 小笠原諸禮大全』忠雅堂・明治二十七年初版)〉(本書より)
 鼻もリズムをもってかむと、美しくきこえるものなのか。低く、少し高く、そして低くと三度で鼻をかむとよいという。人前で、さっそく実践してみたくなってくるものだ。本書で、〈「その場で紹介する場合」〉というお作法では。
 〈紹介された時はお互ひに名刺を出すが、地位の下の者から先に出さなければいけない。目下から名刺を受取つても、地位の高い方からは必ずしも名刺を出さないでもよい。(『日常禮法の心得』徳川義親著・實業之日本社・昭和十五年二十三版〉(本書より)
 こっちが名刺を出して、相手から「今、名刺が切れているもので……」といって渡されない場合があったりする。考えてみると自分も同じようなことをやっている。名刺は切らしてはいかんだろう。かといって、「名刺をいただいても、切れていてこちらからお渡しすることができませんから、ごえんりょいたします」と、お断りするのも変だ。それに、名刺に地位が高いも低いもないと思うのだが、やっぱりあるのかしら……。それが名刺というものか。







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