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評者◆前田和男
第79回 「政権交代」から「政治文化交代」へ
No.2967 ・ 2010年05月29日




 金成洋治は一九九三年の日本新党解党以降、細川と行動をともにし、その後民主党の副代表となった円より子のブレーンとして、空白の一五年の中で民主党の動向を見届けてきたが、今回ようやくなった政権交代劇に日本新党が果たした役割をどう見ているのだろうか。
 金成は私に一枚の「集合記念写真」を見せて、興味深いコメントを示してくれた。ホテルのレストランとおぼしき場所で、口元に優雅な笑みをうかべた細川護熙(七二歳)を十人ほどの人物が囲み、その背後で金成が気配を消して参謀然と控えている。金成によれば、今回の政権交代劇の二か月後に撮られたもので、民主党新人として当選を果たした「民主党細川グループ祝勝会の記念写真」とでもいうべきものだ。
 そのうちの一人は、福岡八区で、麻生太郎前首相と相まみえ、小選挙区では敗れはしたが比例で復活当選した山本剛正(三七歳)で、一六年前日本新党が初登場で大ブームをまきおこしたとき学生ボランティアとして参加した経歴をもつ。政治家らしくない楚々とした女性がいるので、誰何すると、東京十区で、元日本新党の小池百合子と戦って見事小選挙区で勝ち上がった東大准教授の江端貴子だという。そういえばテレビの選挙番組で見たような気もする。
 どうやら金成のいわんとしていることがこの写真で知れた。すでに私はこう結論づけた。「日本新党が生み出した「新しい政治文化」は、今回の政権交代にほとんど生かされることはなかった。だからこそ、一九九三年につかの間訪れた細川非自民政権交代から、一五年も政治的停滞がつづいたのではないか」と。また、長浜博行はこう断じた。「今の民主党の中では、「日本新党的なるもの」は過去のものとして忘れ去られている」と。
 これに対して、金成はこう言いたいのであろう。それはあくまでも「表の世界の話」でしかない。「日本新党的な新しい政治文化」は、政治の伏流水、地下水脈の中で一五年間にわたって脈々と受け継がれてきた。出番はまさにこれからだ。伏流水があったからこそ政権交代が起きたのであり、これから日本新党という伏流水をどう生かしていくかということが課題なのだ、と。
 二一世紀を目前に控えた一〇年ほど前、日本新党は解党され新進党を経て民主党へ合流したものの、政権交代への道ははるか遠くにみえるなかで、金成は、元日本新党の「同志」たちにむけて、こんなメモを残している。

 「明治維新も直線的に進行していったかといえば、長州藩が示すように、黒船が来て攘夷に走って、薩摩・会津に朝敵とみなされ、長州人は憤死し、公武合体派の台頭で攘夷派は追放される。そこから晋作の倒幕決起となり、竜馬が昨日の敵を友とする策(薩長同盟)をすすめ、倒幕が成就した。そして開国となり、新しい日本の誕生となる。恐らくは、最初から新しい日本といっても国民にはわからない。しかし、流れているものは新しい日本をつくるという点で一貫している。当時はわからなくて、あとからわかる。時代の風を受けた人々が、その過程の中で連携し、流れをつくっていき、その間に、錦の御旗がどんどん変わっていくということである。最初から錦の御旗はひとつということで走っていって事が成就するほど人間の世界は単純ではない。」

 金成は、日本新党を幕末維新の長州の志士たちだといいたいのであろう。そして、金成自身と「同志」を督励したように、日本新党が提起した「新しい日本をつくる」という流れは一貫していた。それがようやく証明されたのが今回の政権交代劇であった。しかし、それは「大政奉還」であって新政府が確立されたわけではない。「新しい日本をつくる」という伏流が九三年の細川政権以来、久方ぶりに表に噴出したにすぎない。このまま滔々たる本流となるかどうかは定かではない。また伏流として地の下へ潜ってしまうかもしれない。
 細川政権なみの高い国民的支持をうけて成立した民主党政権だが、日を追うごとに、頼りなげで、ダッチロールしているかにみえる。それは、やれ政府と党の一元化がどうの、やれ小沢一郎の独裁的コントロールがこうのといった「政治技術」の問題ではない。実は政権は変わったものの「政治文化」がさっぱり変わっていないことに真の原因があるのではなかろうか。だとしたら、今後の政権運営のなかで、そしてとり急ぎは次の参院選の中で、日本新党が提起した「新しい政治文化」という伏流水を滔々たる本流に育てる「水路」をつくらねばならない。
 単なる政権交代から政治文化の交代へ――。
 金成洋治六七歳。細川の新党立ち上げの誘いに応えて、「参謀」に徹しつづけて一七年。それをめざしていまなお仕掛け中である。
(文中敬称略)
(ノンフィクション作家)







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