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評者◆秋竜山
大きくて小さな日本、の巻
No.2966 ・ 2010年05月22日




 大人の笑い。竹内政明『名文どろぼう』(文春新書、本体七三〇円)漫画の笑い、活字の笑い。本書は、活字の大人の笑いということになるだろう。
 〈新聞社に籍を置いて三十年、しゃれた言葉や気の利いた言い回し、味のある文章を、半分は仕事の必要から、半分は道楽で採集してきた。本書ではコレクションの一部をご覧いただく。引用とは他人のフンドシで相撲を取るようなものだから、題名は「フンドシ博物館」でもよかったが、それではあんまりなので「名文どろぼう」とした。〉(本書より)
 名文には笑いがある。笑いのない名文など存在しないだろう。なんて、名文を持ち上げるのもわるくない。本書で取り上げられている名文の一つ一つを笑いと共に味わうというのは私だけだろうか。著者は、本書を〈書いていて楽しかった。日本語にまさる娯楽はないと思っている。〉名コラムニストがいうと生き生きした娯楽=笑いとなってくる。日本人だったら日本語が一番の娯楽だ。日本酒の味であり、和食の味である。本書に、〈本書で引用した名文のブックリスト〉が記されている。二百十冊の本だ。これらの本の中から名文を釣り上げているのである。本棚にこれだけの本を並べたら、それだけで自分も名文家になるかもしれないぞ!! なんて、ね。〈気象庁のソフトボール大会が雨で延期されたそうでございます。―桂枝雀「らくごDE枝雀」(ちくま文庫)〉テレビのない時代。ラジオで天気予報をやっていた時のほうが、おかしかった。テレビの天気予報はちっとも面白くない。よく当たるからである。わざとはずして予報するなんてことはできないのだろうか。
 〈戦後すぐも、今日も、その的中率というものは変わりがないそうでして、ほぼ六割やそうでございますねェ。お天気というものは大別しますと「晴」か「雨」でございますから、毎日「晴」「晴」「晴」「晴」「晴」……言うてましても、五割は当たる勘定でございます。ですから、それをでございますねェ、「晴やァ」「雨やァ」「ちょっと曇りやァ」…てなことを言いながら、じょうずにはずしているわけでございます。―(同右)〉〈宇宙広しと雖も間違ッこのないものは我恋と天気予報の「所により雨」―斎藤緑雨(出久根達郎「昔をたずねて今を知る(読売新聞で読む明治)」、中央公論新社)〉〈わが傘を持ち去りし者に十倍の罰を空想しつつ濡れてきぬ――竹山広「竹山広全歌集」(雁書館)〉
 今は天気予報といえばテレビである。すぐ、くらべたくなるのは、昔のラジオの頃の天気予報だ。テレビ天気予報は面白味がない。なぜならば必ず当たるからだ。その点、ラジオ時代の天気予報は、当らないものと相場が決まっていた。「晴」と放送されて、「雨」であったとしても怒ることもなく、ラジオの天気予報だから、これでよい!! とさえ思っていたのであった。だから天気予報は漫画の一つの世界でもあった。それでよかった時代ということだろうか。今の時代は、それでは済まないことのような気もしてくる。テレビの天気予報を毎日眺めながら、毎日「日本列島の地図」を見せつけられるということだ。大きくて小さな日本列島である。その島で「晴」とか「雨」にこだわって生活している。







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