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評者◆添田馨
数多の詩人たちの気配――第一回鮎川信夫賞の授賞式
No.2966 ・ 2010年05月22日




 第一回鮎川信夫賞の授賞式が、去る4月23日に都内のホテルで開催された。戦後詩人の名を冠した文学賞が創設されたのは、恐らくこれが初めてのことだろう。記念すべき第一回の受賞者は、詩集部門が谷川俊太郎『トロムソコラージュ』(新潮社)、詩論集部門が稲川方人・瀬尾育生『詩的間伐――対話2002‐2009』(思潮社)、そして特別賞が粟津則雄『粟津則雄著作集』全七巻(思潮社)であった。同賞の運営母体である「鮎川信夫顕彰会」は、詩の出版社である思潮社内に置かれている。文字通り戦後詩の歴史と歩みを共にしてきた同社の立ち位置から考えて、それは半ば必然的な帰結のようにも映る。
 冒頭、思潮社会長・小田久郎がみずから挨拶にたち、その話の内容がまた印象的だった。『現代詩手帖』に先立つ雑誌『文章楽部』の投稿詩欄の当時の選者が、実は故鮎川信夫と谷川俊太郎の二人だったとのこと。一九五四年頃の話だという。今般、鮎川賞の最初の受賞者が谷川氏だったことはまったくの偶然であり、意図した結果では決してないことを小田氏は強調しておられたが、やはりそこには時空を超えて何者かの見えざる手が働いたような気がしてならない。
 それから選考委員と受賞者が一人ずつ舞台に上がり、賞状の授与と講評やら受賞のコメントやらを述べ合ったのだが、聞いている内に私は一種不可思議な感興に捉えられていった。文学賞の受賞パーティーとしてはごく当り前と言っていいこれらの進行が、いつしか私の中に全く別の想像的次元を、思いがけずも挿入していったのである。即ち、その時その場に集った人たちは無論のこと、今ここにはいないはずの詩人たちまでもが、いきなりおなじ会場内にその実在性をみるみる増していく気配が、何故か私の中で起こったのである。そこには「荒地」派の詩人たちに加え、五〇年代に登場した「第三期の詩人」たち、また六〇年代詩人もいれば七〇年代を風靡した一連の詩人たち、また一気に飛んでゼロ年代の詩人たちも…、といった具合に、戦後の詩をつらぬく時間的重層を背景にした詩人相互の関係性の坩堝が、鮎川信夫を起点に確かに顕在しているような、そんな共時的(シンクロニック)なビジョンの渦へと私を連れ去ったのだった。
(詩人・批評家)







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