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評者◆秋竜山
ふっとばない「蒲団」、の巻
No.2964 ・ 2010年05月01日




 なんだか、よくわからない。あまり、評判がよくないようだ。大体において、私が「いいなァ」というものは、否定されてしまうような運命にあるようだ。田山花袋の「蒲団」という小説を青年の頃読んで、なにかしらジーンとくるものがあって、「この感情、非常によくわかる」とか、自分も泣きたくなったような気がしてきたものだ。もちろん、小説の最後のほうであった。だから、いい小説だとかなんとかいう前に、いいものを読んだと感動すらしたものであった。そのことを、話の中で「蒲団」のことが出た時など、「アレは感動した」と私がいうと、決って「アレは駄目だ」と、否定されてしまうのであった。駄目の理由はどうでもよい。私にとってはよかったのだから。小谷野敦『私小説のすすめ』(平凡社、本体七〇〇円)を、書店でパラリとめくったら、田山花袋の「蒲団」という活字が多くのページにあったので、これは!! と、思った。
 〈実に、青臭いというか、情けない話である。初期の「私小説」は、やはり「蒲団」の影響もあって、恋愛をめぐる自分の情けない話を描く、というのがはやっていたようだ。一九一一年(明治四十四年)には武者小路実篤の「お目出たき人」が「白樺」に発表されているが、これまた、童貞の主人公が、ほとんど話をしたこともない少女に恋をして、結局うまく行かないまま彼女は嫁に行ってしまうという話で、武者小路には失恋ものが多い。後に書かれた自伝的小説「或る男」も、性の悩みに関する箇所が多いし、志賀直哉も初めは、「濁った頭」のような自己暴露的な私小説を書いている。(略)あるいは久米正雄の「破船」(一九二二年=大正十一年連載)も失恋話である。〉(本書より)
 田山花袋の「蒲団」が好き、と同じように武者小路実篤の「お目出たき人」とか「或る男」など、好きな小説である。失恋ものだから好きというわけでもない。
 〈しかし、私小説否定派にとっては、こういう、情けない失恋やら、薄汚い現実などを描いた小説が、許しがたく感じられるらしく、一九一六年(大正五年)に、漱石門下の赤木桁平は、「『遊蕩文学』の撲滅」という評論を「読売新聞」紙上に掲げて、主として近松秋江を批判して、「低劣なる乞食文学」とまで呼んだ(千葉俊二・坪内祐三編『日本近代文学評論選 明治・大正篇』岩波文庫)〉(本書より)。
 それよりも、「蒲団」である。この小説は攻撃をうけるようにできているようだ。むずかしいことはわからないが「かなしい小説」ということになる。しかし、よく考えてみると、攻撃されればされる程、生きながらえているように思えてくる。白といえば黒というようなものだ。
 〈「蒲団」は名作である。過去の日本の「私小説」には、徳田秋聲の「仮装人物」のように、モデルを知らないと理解できないものが少なくなく、それらの多くは埋もれているが、「蒲団」はそうではない。そして、恋をした男が陥る性的妄想を描いて先駆的であり、滑稽だとして読むことも、共感して読むことも可能であって、むしろその力強さのゆえに〉(本書より)蒲団にもぐって「蒲団」を読む時、「日本人だなァ……」と感じてしまうのだ。







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