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評者◆稲賀繁美
紀友則とダヌンツィオとの詩的競演 早稲田大学 戸山図書館蔵本の書き付けから・下
No.2964 ・ 2010年05月01日




(承前)新聞刊行版初出冒頭に置かれた訳詩は、後のダヌンツィオ自身の詩集からは削除されている。だがイタリアの詩人の原初の発想源がほかならぬこの友則の和歌にあったことは、早稲田大学本の書き込みから判明する。というのも、草稿冒頭には、友則の挑戦に応答しようとするダヌンツィオの対抗意識を盛った別の詩句が置かれていたからだ。今回初出のイタリア語手稿原文全文の公表は、尾崎論文の刊行に待ちたいが、そこには、直訳すれば「水面に浮かぶ、かよわき花のような、これらの歌句(うた)を、花慈しむ君に捧げる、我は新たなトメノリ」との詩句が見える。do questi versi, / fragili come fiori / da l’acqua emersi, / a te che i fiori adori / io novo Tomenori(戯れにもう少し砕けば「浮かびくるみなものうへのはなのごと、はかなきうたを君に捧げむ。君花を愛で、トメノリ我は 今様朝臣」:稲賀愚訳)。トメノリが友則の書き誤りなのは、明らか。
 この手稿冒頭の一聯は1885年の初出では改稿され、日本の詩人の名前もTomonoriと訂正のうえ、最後の第十二聯に移動されて、「ウタ」全体を引き締める。だが1886年以降の活字版では、冒頭の友則の翻訳も、この最後の一聯も削除され、ダヌンツィオ一色となる。このため、Outaから日本起源は想定できても、ダヌンツィオの詩興を刺激した源が、古今集の歌人、紀友則にあったことは、もはや伺い知る術がなかった。
 詩の推敲過程で源泉が昇華されてゆき、技巧の陰で、影響源が蒸散してゆく。そんな機微を復元できる点でも、今回の早稲田大学本の書き込みの同定は、貴重な学術的貢献といえる成果だろう。論文は『比較文学年誌』46号掲載予定とのこと。(国際日本文化研究センター研究員・総合研究大学院大学教授)

 *2009年12月5日 早稲田大学 明治美術学会での尾崎有紀子氏の発表「『蜻蛉集』とダンヌンツィオ-〈西洋うた Outa occidentale〉新資料をめぐって」に取材した。発表者の許諾と斧正を得てここに報告する。当日の研究会主催者兼司会は、20年ほど前に件の書籍を早稲田大学戸山図書館に購入し、いち早く書き入れに注目した丹尾安典教授。本稿は、司会者からその場で求められた即興の講評に、必要最低限の加筆を施したものである。(了)







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