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評者◆小嵐九八郎
生命科学の学者がとぼけて歌う――永田和宏著『日和――シリーズ現代三十六歌仙1』(本体三〇〇〇円・砂子屋書房)
No.2962 ・ 2010年04月17日




 暇な上に\"権威\"とか\"資格\"に弱いから、司法試験と医者の免許をとるのではどちらが難しいのか、偉いのかと考えることがある。ただ、文科系のはずなのに司法試験を通った人の文章はあんまり上手ではない。もしかしたら、俺が裁判官に二度、有罪判決文を読み上げられた怨みか。理数科が不得意で、国立大学を落ちた者の僻みか、医学とか物理学とかを研究する人の文、詩歌というのはどこかしら魅力を持っている。鴎外、杢太郎、茂吉、寅彦と。むろん、ヤブ医者も無数いるだろうけど。
 永田和宏氏という、たしか京大で細胞学を教えていて、今は、京都産業大学の総合生命科学部の学部長の人がいる。知ってるって?そう、朝日新聞の短歌欄の選者でもある。
 処女歌集では《くれないの愛と思えり 星掴むかたちに欅吹かれていたる》と、歌人にはきつく刻印されている歌を作っている。ヘボ歌人の当方に言わせると、一首の前半の心の純粋さと後半の字余りと思わせるほどの宇宙観が鬩ぎ合っていて、鮮烈そのものである。
 時期が少しずれてしまったが、その永田和宏氏の、砂子屋書房が出す「現代三十六歌仙」の第一弾としての歌集、『日和』(ちと高いですわな、本体3000円)を読んだ。
《シデムシは死出虫にしてたちまちに死臭を嗅ぎて群れ来るという》
 生命科学の学者が、ややとぼけてこう歌うと説得力のほかに、なにやら死というのが匂って、かつ、読み手が余裕をもって死を眺めることができるから不思議である。
 とぼけの歌は、もっとある。
《尾が少し伸びたと電話に言いやればうらやましそうなりその子四歳》
《たこやきの六個のぬくさ掌に載せてぐずぐずとまだ決断をせず》
 青臭い俺には、こういう地平がまぶしい。
 しかし、乳ガンと闘う妻への、次の悲痛な贈り物の歌もある。高価でも買った方が良い。
《雪折れの孟宗をつぎつぎ火にくべて嘘のようなり君に還暦》
(作家・歌人)







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