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評者◆秋竜山
とりあえず元気が出るトイレ、の巻
No.2962 ・ 2010年04月17日
劇場の中へ入ると同時に眠くなってしまうのは、わからないように眠り薬を仕掛けてあるのだろうか。それほどに眠くなってしまう。場内がボワーンとした雰囲気のせいか、コックリしたくなるのかもしれない。一〇〇%居眠りをはじめる。一人の時はいいけど連れがいたりすると、失礼したような気分になってしまう。それでいて、宝塚歌劇だけは居眠りしない。客席は女ばかりであり、はるかかなたに男がいる。男同志のようなものを感じ、いとおしささえあるものだ。オペラグラスで眺めてみると、やはり居眠りしていないようだ。ある女性がいった。映画館などで男性が船をこいでいるのは、「つかれているからでしょうね……」とのこと。女性は居眠りなんかしていない。「つかれていないから……」と、いうことか。タカラヅカで男性の居眠りを観ることができないのは、それなりの理由があるのだろう。中本千晶『なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか――不景気も吹き飛ばすタカラヅカの魅力』(小学館新書、本体七二〇円)では、男も観るべし!! とある。それに付け加えるべきだろう〈居眠りさせません!!〉とね。本書では10のメリットがあるという。そして〈このまま喰わず嫌いでいいのか?〉とまでいう。その、おトク感というのが、〈人脈が広がる〉〈妻や娘との関係が修復される〉〈意外と教養が身につく〉〈右脳が鍛えられる〉〈客席でモテる〉〈客席以外でもモテる〉〈トイレにすぐ入れる〉〈関西出張の楽しみが増える〉〈美人観察ができる〉〈とりあえず元気がでる…〉とのこと。本書に眼を通し、タカラヅカへ走る男がいるだろうか。男にとって、文句のつけようのないことばかりではないか。〈客席でモテる〉〈客席以外でもモテる〉という。どのようにモテるかしらないけれど。そして、〈トイレにすぐ入れる〉という。これはウソではないホントだ。私が実際に観劇に出かけた時、トイレにすぐ入れたから体験者として証明できる。とにかく、驚いてしまうのは、女性たちの行列である。入場すると同時に行列をつくる。おびただしい数の女子トイレ前の行列である。第一目的はトイレであって観劇は第二目的であるだろうと男の眼にうつるのだ。
〈東京宝塚劇場の場合、女子トイレの総数は何と86室!対する男子トイレは1・3・4階にあり、その総数はアサガオ10基、個室6室だそうである。また、このほかに身障者用トイレが1・3階に1室ずつある。〉(本書より) 他の劇場にくらべると類を見ないくらい整備されている。86室のトイレを幕間休憩30分間のうちでひとりの持ち時間は、何と、約2分弱だという。いったい、どのようにして用を足すのだろうか。トイレの中でまごまごしていられないだろう。男性のトイレ事情はとってもいい。なにしろ男性客はチラホラだからだ。 〈ひとりあたりの持ち時間は何と7分以上もあることになる。〉(本書より) トイレの中で、ひとねむりできるというものだ。そして、「アア、男に生まれて、しあわせだ」と、用をたす一瞬でもある。それが〈とりあえず元気が出る〉ということか……。 |
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