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評者◆添田馨
詩の書き手として試されていること――〝魔法〟の言葉がもたらした、創作に対する異様に昂揚した意識状態
No.2961 ・ 2010年04月10日




 私事で恐縮だが、このところ異様に昂揚した意識状態が続いている。恐らくここ二十年くらいで一番強力な波が来ていると思う。自分でも驚いているのだが、頭の中がいわゆるフローの状態になったまま、つまりスイッチがオンになったままの状態がもう一週間、いやもっと長いこと続いていて一向に収まる気配がないのだ。
 最も大きな変化のひとつは、詩行が舌先から溢れるように次々と浮かんできて、どうしようもないことだ。これまでほとんど口外したこともないが、私は自分が詩を作る際には、まず頭のなかに最初の一行や複合的なイメージといったものが実体的な感覚を伴って浮かび上がり、その状態が二、三日しても途絶えないような場合、頭に浮かんだ言葉なり像なりが、何か自分にとって意味があるものに違いないと考えるようにしてきた。作品のいわばそれは“種”に相当する部分であって、実際に詩行を練り上げるのは、それから後の作業になる。よって、これまでにも今回の状況と似たようなことは度々あったのだが、このようにそれが長く持続する事態はついぞ経験したことがない。事実、この一週間の間、毎日のように作品が生まれている。それもほとんど自動筆記のようにしてである。いま自分が書きつつあるのが詩なのか何なのか、そんな批評意識が働くそばから次の言葉の津波(そう、まさにそれは津波と呼ぶに相応しい)がやって来てしまうので、立ち止まって考えている余裕すらないのだ。これは相当な事件が自分の中で起きているのだと考えるしかない。私にこうした劇的な変化を呼び込んだものは果たして何であろうか?
 ひとつだけ思い当たることがある。きわめて小さな出来事なのだが、自分がある局面で真剣に必要とされていることに、はたと気づかされることがあった。きっかけはある人の口から発せられた何気ない言葉だったが、実は真剣な内容のものだった。私はその人の言葉がきっかけになって、思いがけずも自分のこれまでの半生が一挙に清算されるほどの、強烈な自覚を喚起されることになったのである。“魔法”の言葉というものがあるとすれば、恐らくこういうことを指すのだろう。世界との全面的な通行性が、そこで爆発的に呼び込まれてしまう転回とでも言えばいいだろうか。
 “魔法”の言葉が持つ強度と自分の詩の言葉が本当に拮抗できるのか、私はいまひとりの詩の書き手として、そのことを何よりも強く試されているのだと思う。
(詩人・批評家)







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