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評者◆前田和男
第72回 「微勝利」から地すべり的勝利へ
No.2959 ・ 2010年03月27日




 竹下元首相の「四議席なら合格」のラインはなんとかクリアして、次の衆議院選挙に向けて「ため」をつくった日本新党だったが、ここで突然天が味方をする。一九九二年秋から翌年春にかけて自民党竹下派の金庫番・金丸信が五億円の「裏金」をもらったとされる佐川急便事件が明るみに出たのだ。これで、「やっぱり自民党はだめだ」の世論が一気に沸きあがった。五五年体制で自民と利権を分けあった社会党も片棒担ぎで同罪。小沢グループも古巣は所詮カネまみれの自民党。そこで、しがらみのない細川の日本新党が有権者には新鮮にみえてきたのである。
 細川と金成たちはこの風を逃さなかった。「政治改革に関する10ケ条」を発表すると、「金丸先生に一言メッセージ大会」と題する街頭キャンペーンを実施して世論を味方につけていった。そして年があけて一九九三年。日本新党にとってまさに一〇年に匹敵する激動の一年となった。
 二月一四日の山形県知事選挙では日本新党の推薦した高橋和雄が下馬評を裏切って当選。つづいて議会ぐるみの不正出張が表面化した中で戦われた尼崎市議選。日本新党は一〇人の候補をたて六人を当選させ、推薦当選者を糾合して議会第一党に躍り出た。
 その追い風を受けて六月下旬の都議選へ。議員ゼロの状態から公認候補二〇名(うちトップ九人)、推薦候補七名を当選させ、一気に都議会において自民・社会につぐ第三党に躍進したのである。
 そしていよいよ真価が試される第四〇回の衆議院選挙がやってくる。中選挙区制最後となったこの選挙には、日本新党以外に、小沢一郎の新生党、武村正義の新党さきがけと、「新党」が出揃う。
 参議院でホップ、都議選でステップした日本新党は、衆院選でジャンプを果たすべく、一息入れる間もなかった。都議選の一週間後の七月三日、候補者九〇名(公認候補五五名、推薦候補二二名、支持一三名)を発表。そして翌七月四日、代表の細川は、小沢鋭仁(現環境大臣)が立候補する甲府で第一声を上げた。
 公示日前後に行なわれた新聞社の世論調査では、日本新党の支持率はいずれも一五%前後と高く、序盤戦から追い風に乗った選挙戦を展開。「日本新党、大躍進か」「日本新党、急伸」「日本新党、自社食う勢い」の見出しが各紙の選挙記事に大きく躍った。
 日本新党の真価が問われる選挙に向けて、五五年体制の打破を掲げるからには、選挙の手法もまた旧来の自民・社会とは違う「日本新党らしさ」が求められた。金成ら「裏方参謀」は、それを演出すべく手を尽くした。そんな選挙作戦のひとつが細川と候補者による大学への飛びこみアベック遊説だった。金成が先の参院選で編み出した細川・小池を広告塔にする作戦の発展系だ。「(一九六八年の若者による)パリの(五月)革命だって何だってみんなキャンパスから起こっている。キャンパスが時代のアンテナ」という細川の目論見どおり(『「新党」全記録』インタビュー)、反応は上々。多くの学生たちが、キャンパス遊説に惹かれて、ボランティアとして本部に駆けつけてくれたという。
 猛烈な追い風をもっとも体感したのは候補者自身だった。参議院選挙では「裏方」だったが衆議院選挙では候補者となった長浜博行もそのひとりだ。年金生活の女性が惜しげもなく千円をカンパしてくれたり、「浄財」がおもしろいように集まった。このときから長浜は六回選挙をしているが、あれほどの強風を味わったことはないという。
 一方、日本新党への追い風はライバル他党には逆風であり、さまざまな嫌がらせをうけた。長浜の選挙区は中選挙区最後の旧千葉四区、定員五人に、日本新党公認の長浜に加えて、自民党、新生党、さきがけ、社会党、公明党、共産党の有力七人が鎬を削る選挙戦になったが、街頭演説で他の候補者とかちあうと「お前はもう受かっているんだから、ここは譲ってくれ」と言われ、長浜の支持者がライバル候補から「長浜は大丈夫だから、私に」と切り崩されたという。それでも、結果は二位と一〇〇票差の三位で余裕の当選。長浜が体感したとおり、またライバルたちが脅威に感じたとおり、日本新党には強烈な追い風が吹いていたことを証明したのであった。
 日本新党候補が立候補する長浜以外の選挙区でも同じ追い風が吹きまくるなか、細川代表の遊説距離は七四〇〇キロに及んだ。そして、結果はほぼマスコミの事前予想どおり、三六人が当選、うちトップ一七人という大いなる凱歌を挙げた。日本新党の大躍進にもっとも酔い痴れたのは当事者だった。細川自身も後にこう述べている。

 「もしすべての選挙区で立てていたら、本当に圧勝したと。100ぐらいは本当に取ったと思います」(『「新党」全記録』インタビュー)
(文中敬称略)







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