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評者◆秋竜山
文字における水木漫画、の巻
No.2959 ・ 2010年03月27日




 面白い人は沢山いる。が、変な人となると、どうだろうか。とにかく、変な人なのである。漫画家・水木しげるさんは、変な人の代表のような存在かもしれない。自分のことを「水木サン」と、呼ぶ。間違いなく、変な人である。大泉実成編・水木しげる著『水木サンの迷言366日』(幻冬舎文庫、本体六八六円)は、一日一迷言を一冊の本にしたものだ。よく、日めくりのカレンダーなどに使う手であるが、一冊の文庫にしたのがいい。迷言は短い文章ほどピリッとするものである。一日一ピリッが理想である。本書は本箱などにおさめるのではなく、一番理想とするのは、家のトイレの中へ置くのがよかろう。毎日、一ピリッを読む。いっぺんに何日分も読もうなんてのはよくない。読みたいのをグッとこらえること。一日何回もトイレに入る場合は、何回も今日の迷言としての同じ部分を重ね読みすべきだ。回を重ねるにつれて、異なった、おかしさとか笑いとか、うならせたりする。それが全部、水木サンそのものであるから、文字における水木漫画をみているような味わいがある。本書を読みながら、水木漫画はこれにあるというような、「ウン、この笑いがあってこその水木漫画だ」なんて、思わせてくれる(私は特に水木漫画の初期の短編が大好きである)。
 〈(なぜあんなビンボー漫画を描いたのか、というインタビューで)
大泉 手塚治虫とか石ノ森章太郎とかは、未来のロボットとかを中心に描くじゃないですか。逆に先生とかガロ系の作家とかは、現実的なビンボーを描いて、二つに分かれてますよね。
水木 手塚系統はね、雑誌の編集者が好むんです。少年雑誌にビンボー漫画を描いたって、ハタと膝を叩く少年はおらんでしょうからね。だから、本質的に大人漫画だな、水木さんのは。自分がおもしろいことを描くというのが基本だからですなあ。おもしろくないものは本人は描きたくないわけですよ。だから手塚さんみたいに、ありもしない未来のロボット話は本当に作り話だから、水木さんには苦しかったですね。〉(本書より)
 これが一日分の迷言である。
 〈(富士山の別荘地を歩きながら)私と手塚治虫の違いは、生活を楽しむってことじゃないですかね? 仕事がこれ以上増えちゃいかんのです。こういう時間がなくなりますからね。…マンガを描きながら死んでゆく、なんて大嫌いです。〉(本書より)
 これも一日分の迷言である。水木しげるがいて、手塚治虫がいて、という時代があった。そして、手塚治虫の早死にに、水木さんは、「私と手塚さんとの違いは、手塚さんは毎晩、寝ずに漫画を描き続けたのに、私は、よく寝たからだ」というようなことを語っていた。「なるほど」と、思わせる一面はあるにせよ、水木さんとて徹夜続きだっただろう。〈(水木プロで)いや、最近はね、働いているフリをしとるだけです。〉〈努力は、人を裏切る。〉〈わたしは幸せのことしか考えないからよかったのです。今の人々は、わざと幸せにならないように努力している。〉そして、〈屁のような人生〉という一日の迷言がある。トイレの中でこれを読んで何を感ずるか。実感とするところだろう。そして、屁にもいろいろある。……かしら。







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