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評者◆秋竜山
読めないサイン、の巻
No.2958 ・ 2010年03月20日




 三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活8・復活の日』(朝日新聞出版、本体一一〇〇円)を読む。〈初出・朝日新聞二〇〇八年四月十一日~二〇〇九年四月十七日〉朝日の毎週一回連載の人気エッセイである。ときめきの人気脚本家だから、内容もウキウキしている。身のまわりの出来事、現場感覚が伝わってくる。それを読者は望んでいるのだろう。テレビの人形劇「新・三銃士」を、四歳の子が面白いといって画面に眼を近づけて観ている。こんな幼児が!! と、私も一緒になって観る。笑うところが一緒の同時笑いであることにも驚かされる。その子に、「三谷幸喜って知ってるかい?」と聞くと、「しらない」と答えた。その子も何年かすると、名前を知ることになるだろう。本書で面白かったのは、〈生まれて初めてのサイン会〉。売れっこになると、サイン会もしなければいけないということになる。いそがしいから、と断っても、そこを抜け出して!! ということになる。サインというものは人気があるからできるものであり、求められるからサインを書けるものだ。〈先日、清水ミチコさんとサイン会をやった。二人のラジオのおしゃべりが本になってその記念のイベントである。〉そして、〈サイン会は苦手だ。この連載の本が出る時も、実は一度もやったことがない。〉〈一番大きな理由は、僕にはサインがないのだ。〉ということだ。要するにサイン文字が考案されていないということらしい。サイン文字における定義というものがあるかないかはしらないが、昔っからスターなどのサインをみると、そこに何とかいてあるか絶対に読めない。読めなければ読めないほど素晴しいサインということになるという気風がある。すぐ読めるサインは、たいしたことがないサインであるともいえそうだ。だからこそ、スター達は、わけのわからないグルグルパーというような線を書き、自分にも読めないサインを記するのである。
 〈やってみて分かったこと。今までさんざん崩し字のサインを馬鹿にしてきたが、サインは崩すに限りますね。楷書では時間がかかって仕方ない。「三谷」はいいけど、「幸喜」のあたりでだんだんもどかしくなってくる。なるほど、だから皆さん、崩して書いていたのか。〉(本書より)
 三谷さんは実際に自分が引っ張り出されて、正しいサインのありかたを習得されたようである。一枚でも多くサインしてファンに手渡してあげたい。その気持はわかる。スターが一生の内に何枚ぐらいサインをするだろうか。知ってみたい気もする。数多ければいいというものではない。と、同時に、数多ければいいのだという考えもある。問題は、頂いたサインをどのように扱うかだ。あるところで、有名な政治家のゴーカな額入りサインが飾られてあった。それをみて「さすが、たいしたものだ」と、みんな口をそろえて言った。その横に鋲でとめられたサインがあった。これをみて誰もがたいしたものだ!! とは言わなかった。扱いがあまりにも違いすぎる!! と誰もが思った。しかし、そのサインは誰のものかわからなかった。読めない文字であったからである。こーいうこともあるんだと思わせる事実である。だからして、サインは読める文字で書くべきではない。恥をかかなければならないことになってしまうからである。







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