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評者◆前田和男
第71回 戦後最低の投票率と「民主主義の危機」
No.2958 ・ 2010年03月20日




 公募による候補者選びも難航したが、選挙活動も苦労の連続だった。金成は統括責任者として準備不足を承知していたので、高望みはせず、全国区用ポスターの許容十五万枚のうち半分を貼り(かつて一大ブームを起こした新自由クラブですら、半分にとどかず七万枚貼るのが精一杯だった)、細川代表を戴いた全国遊説を北海道から九州まで事故なくやり遂げることを目標に定めた。
 選挙の「廻し役」は、細川の地元熊本の秘書で早大の先輩でもある関上伸彦のもとで若き長浜博行が担うことになったが、スタッフはわずか四〇名ほどで街宣車は六台のみ。金成が定めた「最低目標」ですら、この体制でやるのは暴挙に等しかった。
 細川と縁が深かった熊本を中心にした九州はともかく、それ以外の地域には足がかりがほとんどなかった。策に窮した長浜は、政経塾出身の政治家(それも多くは自民党)に声をかけ、街宣車を一台渡して手伝ってもらった。たとえば、当時自民党の京都府会議員だった前原誠司には、さすが地元は勘弁してくれというので京都だけははずして、近畿・四国の選挙を廻してもらった。また、自民党の都議会議員だった山田宏(現・杉並区長)には、半ば隠密裏で東京と関東を受け持ってもらったという。
 もう一つ金成を悩ませたのはカネであった。国政選挙でもっともカネのかかる広報活動について、自民党をはじめ多くの政党は電通をはじめ大手広告代理店に仕切らせてきた。日本新党にも細川のつながりで電通の子会社が紹介されて参入してきたが、自民党なら五、六十億円だが、日本新党の規模でも十五億円はかかるといわれ、金成はできるだけ自前でやることにした。そして、もっともカネをかけずにやる方法はないかと、ひねりだしたのが、知名度の高い細川と小池を広告塔にする手法だった。これが大いに受けたため、参院選だけでなく衆院選でも同じ作戦がとられ、よりいっそう効果を発揮するが、これもまた窮余の一策であった。
 細川と小池を広告塔にして広報費を浮かしても、それでも全国選挙となれば基礎的経費はかかる。「出る」を制した上で「入る」を計らなければならぬ。そこで金成は一計を案じた。出版である。細川への国民的人気に目をつけて、大手出版社からは出版の依頼が殺到していたが、アドホックなパフォーマンスを嫌う細川は断りつづけていた。そこで金成は、細川護煕の著作ではなく細川護煕編で日本新党の政策をきっちりと訴えるものであればと細川を説得し、細川護煕編『日本新党責任ある変革』(東洋経済新報社)の緊急出版にこぎつけた。金成の目論みがあたって、十万部以上を売り上げ、「ロハの広報活動」となるとともに、印税収入で日本新党の火の車の台所を大いに潤して呉れたのである。
 さて準備不足を一石二鳥の「窮余の一策」で補って戦った結果はどうだったか。
 この第十六回参議院選挙のテーマは、湾岸戦争をうけたPKO問題と懸案の政治改革(小選挙区制導入)だった。三年前の前回の参院選では消費税選挙で大敗北を喫した自民党はこのテーマを無難にこなして復調、いっぽう前回土井たか子ブームと反消費税で大勝した社会党は反PKO法案の強硬姿勢で国民の支持が離れ惨敗。日本新党はその間隙をぬって、初陣ながら細川護煕、小池百合子、寺沢芳男、武田邦太郎の四名を当選させ、全国比例区のミニ政党としては、一九七七年第十一回参院選における河野洋平らの新自由クラブの二〇〇万票、江田三郎らの社会市民連合の一四〇万票、八三年第十三回参院選における青木茂らのサラリーマン新党の二〇〇万票、八六年第十四回参院選における野末陳平らの税金党の一八〇万票を超える、過去最多の三六〇万票余を得て、自民・社会・公明についで四位となった。
 しかし、マスコミや政治関係者には「予想の範囲内」の評価だった。『文藝春秋』の「結党宣言」は一般の国民に衝撃を与えはしたが、実際の日本新党の政治的伸張となると政治の玄人筋とマスコミ関係の評価は冷めていた。竹下元首相には「まあ、細川も四議席をとれれば合格だな」といわれ、いっぽうマスコミの議席予想も「二~五」でほぼ的中した。(ちなみに読売新聞は「三議席程度」、朝日新聞は「四~五議席」、毎日新聞は「三マイナス一議席」)
 それよりもマスコミの話題をさらったのは、八七年の五七・〇%を大きく下回る五〇・七%という戦後最低の投票率に示された「民主主義の危機」だった。多くのマスコミの「選挙総括」は、ロッキード事件・田中金脈事件にはじまる政治の腐敗によって有権者の政治離れが起き、日本新党はそれへの批判の一部受け皿にはなったものの、大方の有権者は「棄権」という形で政治そのものを見捨て、国民の半分の民意しか機能しなくなった。これは「民主主義の危機」だというものだ。それは金成たち日本新党にとっても深刻に受けとめるべき課題だった。
(文中敬称略)
(ノンフィクション作家)







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