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評者◆秋竜山
日本語がマンガ脳を育んだ、の巻
No.2957 ・ 2010年03月13日




 内田樹『日本辺境論』(新潮新書、本体七四〇円)で、面白い個所をみつけた。
 〈漢字は表意文字(ideogram)です。かな(ひらがな、かたかな)は表音文字(phonogram)です。表意文字は図像で、表音文字は音声です。私たちは図像と音声の二つを並行処理しながら言語活動を行っている。〉〈これは養老孟司先生からうかがったことの受け売りですけれど、脳の一部に損傷を受けて文字が読めなくなる事例がいくつか報告されています。生得的な難読症とは違います。文字処理を扱っている脳部位が外傷によって破壊された結果です。欧米語圏では失読症の病態は一つしかない。文字が読めなくなる。それだけです。ところが、日本人の場合は病態が二つある。「漢字だけが読めない」場合と「かなだけが読めない」場合の二つ。(略)漢字とかなは日本人の脳内の違う部位で処理されているということです。だから、片方だけ損傷を受けても、片方は機能している。〉(本書より)
 私たちは、そんな脳で言語操作しているのかと思うと、なにやらうれしくなってくる。
 〈日本人の脳は文字を視覚的に入力しながら、漢字を図像対応部位で、かなを音声対応部位でそれぞれ処理している。だから、失読症の病態が二種類ある。〉(本書より)
 なんとも、うれしいじゃァありませんか。一箇所が駄目になっても、ちっともあわてることはない。もう一箇所がある。欧米語圏では失読症の病態は一つしかない。という。いっそのこと、世界中、漢字と、かな、にしたらどーでしょうか。なんて、マンガみたいなことをいうが、本書のうれしいことは、その次にあるのである(自分がマンガ家だから、なおさら……かしら)。なにげなくマンガなんていっていたが、大変なことである。と思えてくるはずだ。なにが大変であるかというと、世界中のマンガの中で日本のマンガが際立っているということだ。
 〈もっとも際立った事例は「マンガ」という表現手段が日本において選択的に進化したという事実です。これに異論のある人はいないでしょう。〉〈私たちは言語記号の表意性を物質的、身体的なものとして脳のある部位で経験し、一方その表音性を概念的、音声的なものとして別の脳内部位で経験する。養老先生のマンガ論によりますと、漢字を担当している脳内部位はマンガにおける「絵」の部分を処理している。かなを担当している部位はマンガの「ふきだし」を処理している。そういう分業が果たされている。〉(本書より)
 本書のこの項目〈日本語がマンガ脳を育んだ〉を、まず一番に見せたいのは子供を持つお母さんたちにである。さあ、どーしましょう。これを知ったお母さんは大量にマンガ本を買い出して、我が子にあたえることになるだろう。子供の頃からマンガでならされると、間違いなくマンガのヘビー・リーダーになれる。つまり、たんなるマンガ好きではないということだ。そんなことを考えながらマンガを描くマンガ家は一人もいないだろう。面白い作品に仕立てようとしか考えていないはずだ。不言実行かもしれない。







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