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評者◆伊達政保
慈母観音のごとく、生き延びる思想を語る――加藤登紀子著『登紀子1968を語る』(本体八〇〇円、情況新書)
No.2955 ・ 2010年02月27日




 小熊英二著『1968』に思わぬ所から返歌が返ってきた。情況新書の第一巻として発売された加藤登紀子著『登紀子1968を語る』(情況新書)である。オイラの年代にとっては、過剰な思い入れ無しに「お登紀さん」と呼べる人だ。レコード大賞新人賞を「赤い風船」(今でもいい歌だと思う)で受賞して以来、とりわけ注目してという訳ではなかったが、さすが68年の東大卒業式ボイコットのデモに、Gパン姿で参加した週刊誌の写真には、注目させられた。その後も歌や生き方を通し、彼女独自のスタンスで歩き続けていることを、同時代の中で感じていた人である。現在はtwitterでフォローさせてもらってますがね。
 さて68年だ。小熊英二は「現代的不幸のはじまりだった」とし、それに対抗する若者の反乱として捉えるのに対し、お登紀さんは「未知なるものへ果敢に飛び込もうとした」「世界中の若者の」「夢あふれた六八年」と表現する。結果から演繹して歴史を解釈する者と、時代に同伴して歴史を見た者の違いなのだ。本書でお登紀さんも触れている、マー ク・カーランスキーの『1968 世界が揺れた年』も、同時代の学生が後年学者となり著したものだから、同時進行した世界の動きを目の前に再現し、時代の雰囲気について、マーサ・アンド・バンデラスのソウル・ナンバー「ダンシング・イン・ザ・ストリート」の沸き上がるような気分と表現している。
 小熊氏が学生運動の政治的暴力的エスカレートを、運動自身の責務に帰すような論理で展開しているのに対し、お登紀さんは「世界中の若者たちの」「のびのびとした学生運動」を「国が力の対決にもちこみ、暴力的な弾圧をすることで、学生たちは」「より政治的な反権力へと結びついて」いったと説明している。新左翼諸党派(セクト)の教条主義的運動論が諸悪の根源のように解説する小熊氏に対し、お登紀さんは、ブントの一人一党的いい加減さ自由さを68年的だとし、そのブント的生き方に今のネットワークにつながるものがあるという。
 巻末の上野千鶴子との対談で、68年の夢のような部分だけではなく、続く後の困難と頽廃の時代を分けて捉えることが出来ないと主張する上野氏に対し、68年の夢の部分を強調し、生き延びる思想を語るお登紀さんは、まさに慈母観音のごとくである(上野氏からこのマザコン男がと罵倒されそうだが)。念彼観音力、刀尋段段壊、観音様はゲバルトでも強いのだ。
生きている今日が明日を拓く
生きていく命が明日を変える
1968 1968
加藤登紀子・作詞作曲『1968』
(評論家)







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