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評者◆前田和男
第67回 「細川新党のマル秘226人リスト」の怪
No.2954 ・ 2010年02月20日




 細川は、結党宣言をして以降、応援してくれそうな各界の大物に接触を試みたが、「志は賛成だが、私は政治行動をする考えはない」「時代が要求していることだから、大いにおやりなさい、しかし私は」と、やんわりと断られつづけ、大物たちの表だった応援や参加は幻想であることを身をもって思い知らされていた。
 実は、この会議に先立って、新党に対する反応を探り、賛同を得られれば「応援団」になってもらおうと各界の著名人を、細川周辺と友好関係にある大前研一のマッキンゼーとともにリストアップしていたのだが、これが外部に漏れ、五月下旬発売の『サンデー毎日』九二年六月七日号の巻頭記事で「細川新党のマル秘226人リスト入手」として報道された。そこには、長嶋茂雄、王貞治、岡本綾子などのスポーツ系から、吉永小百合、森光子、森繁久彌、高倉健、小椋佳、松任谷由実などの芸能系、五木寛之、司馬遼太郎、城山三郎、瀬戸内寂聴、吉本ばなな、村上春樹などの文化人系、そして福井謙一、野口悠紀雄などの学者系まで、分野と年齢と性別をこえた幅広い「超ビッグネーム」が名を連ねていた。
 これは参謀の金成にとっては「逆効果」どころか「日本新党つぶし」でしかなかった。このリストは、有権者に「日本新党と細川は有名人かぶれか」との印象を与えるだけだからだ。もちろん、これは金成たちが作成したものではなかった。金成の「本籍」である「行革フォーラム」に関係する経済界の有力者(たとえば鈴木永二など)がはいっていないのがそのなによりの証拠であった。なぜこんなことになったのか、関係者として大前研一が同誌の記事で取材されて、次のように答えている。前年に細川から「新党」を立ち上げたいが、応援団を百人選ぶとしたら誰かと相談された。大前は自分に尋ねる前に細川の案をまず示してくれと返したところ、年を越して四月に細川から示されたものはお粗末だったので、大前は自分ならこんな人を選ぶと何人かを挙げた、その何人かはこのリストに入っているがすべてではないというのである。
 大前のコメントを信じれば、それはつい一月ほど前のことであり、大前の推挙もふくめてリストにあげられた二百人余の有名人に接触して了解を得ることなどできるはずもない。要するに、これはイエロージャーナリズムが打ち上げたレベルの低い観測気球記事でしかなかった。
 しかし、この記事の影響が大きかったのは、リストの中に「意中の人」も含まれていたことである。これであたかも「王、長嶋、吉永小百合のような著名人」が新党から立候補するかのような印象を世間に与えてしまい、金成や細川が応援団に、あわよくば候補者になってもらいたいと思っていた「各界の大物たち」の腰を引かせてしまったかもしれないからだ。実際、『サンデー毎日』の二二六人のリストから日本新党の参院選候補者となったのは小池百合子だけ、翌年の衆院選の候補者となったのは海江田万里だけだった(なお、同誌記事によって、五月二五日に予定されていた「支援グループ名簿」の発表はリストアップメンバーと話を十分詰めきれるまで、急遽延期された)。
 こうした経緯があり、もはや「有名人頼むに足らず」と細川は腹をくくっていたと思われる。その決意のほどが牧野を含めて全員をかえって鼓舞したのである。会議では、このメンバーをもって「自由社会連合」(仮称)の決定機関として「常任政務委員会」を設置、さらに党名、綱領、政策、党則、選挙対策などの重要議題を順次もんでいくことを確認した。
 かくして名もないが熱情にあふれた八人の同志で「細川新党」は船出したのである。この時の昂りを金成は、故事を援用して次のように述懐している。
 「歴史というものは、例えば漢の始祖、劉邦は、いわば市井の無頼漢、その仲間で幕閣の要職に就いた蕭何・曹参は沛県出身の下級官吏、夏候嬰は御者、樊噲は食肉犬の販売人と、みな無名の人たちであり、明治維新をとってみても、周知の如く、西郷隆盛、大久保利通は薩摩の下級武士であり、近藤勇率いた新撰組は三多摩の郷士であるように、無名の人たちによって創られるものであるが、しかし、ここに集いし人たちは、確かに世間的には無名であったが、同時に知る人は知る、尋常ならざる人たちでもあった」。
(文中敬称略)







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