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評者◆稲賀繁美
妖術の効能:新植民地主義の現実と小説という虚構世界の可能性――フェリックス・ウロンベ・カプトゥ『役立たずの守護天使』を読む・下
No.2951 ・ 2010年01月30日




 (承前)フェリックス・カプトゥの親友でもあるカトリック神父、ムンシ・ヴァンジラ・ロジェには「コンゴはどうして貧しいか」という分析がある。カプトゥの小説をこの分析に重ねてみると判ってくる。小説の舞台は2001年の大統領ローラン・カビラ暗殺に続く混乱と、2006年の大統領選挙に至る経緯を背景としていた。公称330万人が殺戮された紛争の連鎖に終止符を打ち、国内の和平と国民融和を回復するのが、大統領・州議会選挙の主旨であった。
 この「コンゴ民主共和国にとって独立以来初めての民主的な選挙」と日本とは、無縁どころではない。「八名の監視団が派遣され、約10億700万円に及ぶ無償資金援助」がなされたからである。だがこの膨大な資金が、一般民衆にはまったく届かなかったことは、いまさら確認するまでもあるまい。七三名にのぼる大統領候補のなかには、ムンシ氏の兄も含まれるが、妨害工作のなかで命を付け狙われ、間一髪、暗殺を免れたという。
 こうした利権まみれの権力の腐敗と、密告や殺戮沙汰の深い闇は、獄中の政治犯の中に、卓越した人格を誕生させた。それを著者は「牢獄の学校」の「守護天使」と呼ぶ。教育が無学な暴徒に公徳心を涵養するという夢を、著者はそこに託してみせる。だが小説の題名で、著者はその「守護天使」を、遠慮なく「役立たず」と規定する。そこには底なしの闇を見た著者の、冷厳たる見極めが示されている。無計画と刹那主義と衝動的行動とが支配する「船長なき漂流船」コンゴ。もはや短くない半無政府状況下で、なお人々の友情と善意と連帯とに信を置こうとする著者と、その分身たる「教授」。そこにこの小説の限界を見る向きもあろうが、反対に絶望の彼方に灯された希望の光を認める読者もあるだろう。
 著者はなぜか、現体制への仮借なき批判の筆を控える。それは報復を避けるための不可避の妥協なのか、意志的な自己検閲なのか、それとも悟得ゆえの判断なのか。
Felix Ulombe Kaputu、L’ Ange ‐gardien inutile、 Roman de R.D.Congo、Paris、L’ Harmattan 2009.
Vanzila Roger Munsi ヴァンジラ・ロジェ・ムンシ「コンゴはどうして貧しいか」中村和恵(編)『世界中のアフリカに行こう』岩波書店,2009.
 なおムンシ神父は、ブラザヴィルから東北東に150キロほど離れた、人口14万人の都市バンドゥンドゥで、無就学の子供たちのための小学校立ち上げを計画し、日本の人々からの支援も望んでいる。政府無償援助は、本来こうした事業に着実に行き渡るべきものだろう。だが、残念ながら公的資金では所期の目的は達成しがたい。詳細はvanzila@hotmail.com
(国際日本文化研究センター研究員・総合研究大学院大学教授)
(了)







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