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評者◆添田馨
存在のつぶやき――「『朗読』の外へ」(企画構成‥稲川方人、後援‥思潮社)
No.2951 ・ 2010年01月30日




 年が明けて2010年になった。だが一向に清々しい気持ちになれない。むしろ以前にも増して、重苦しい閉塞感のみが濃厚だ。世の中の景気の悪さばかりが原因ではないだろう。政権交代をもってして来るべき社会ヴィジョンが急に描けるようになるはずもなく、将来に向けての漠然とした不安は、私たちの実存レベルにまでその冷たい霧状の舌先を人知れず差し入れてさえくるようだ。
 昨年の暮れ、埼玉県飯能市のこあに舎で開かれた詩のイベント、「『朗読』の外へ」(企画構成:稲川方人、後援:思潮社)に行ってきた。注目の二人の若手詩人、中尾太一『御世の戦示の木の下で』と岸田将幸『〈孤絶‐角〉』(共に思潮社)の新詩集刊行を記念して、安川奈緒が全体の進行を取りしきり、山嵜高裕、手塚敦史が友情出演というかたちでこれに加わることで織り成される男性四人による自作詩の朗読を、約二時間ちかく、全身で感覚する機会を持った。そこで私が彼等の声の響きからじかに受け取ったのは、「あ、これは存在のつぶやきなんだ」という直覚のようなものだった。四人の存在の非人称なつぶやき声が、か細く途切れそうになりながらも決して断裂はせず、さまざまな痛苦やら嗚咽やらを表現形式の背後に隠し込んで、なおかつ無防備に直接外界へと語る主体そのものを曝している、そんな印象を受けた。冒頭述べた閉塞感とはまた別の、たまらなく空無を耐えながら、自らをその空無さのままに果てしなく深化させていく衝動、あるいはどこか豊饒な死産へと向かう欲動とでも言えばいいだろうか、そのような逼迫感に脳髄を刺し貫かれることになった。一体これは全く予期せぬ新たな詩のあり様への啓示なのか、あるいはまったく経験したことのない言葉の未知の病状なのか。
 もうすでに「戦後」以後ですらない、2010年代に向かうこれらの詩の何気ない佇立の様は、かくも熾烈に詩そのものの非在と抗い、その輪郭をなぞるように描きながら、非在性そのものを錐揉むようにして自らを一縷の実在性へと焦点化させる途に、ようやく着きはじめたという確かな感触となって残った。
(詩人・批評家)







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