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評者◆秋竜山
サラサラ。ポリポリ、の巻
No.2950 ・ 2010年01月23日




 「お茶漬け、サーラサラ・タクアン、ポーリポリ」と、いった。「うまそーだなァ!!」と、思えたら、日本人そのものであると思う。もちろん、外国人だって日本人以上日本的な人もいたりする。要するに、日本的な食の音が聞えてくるということだ。そして、お茶漬けにはタクアンが一番にあうし、タクアンといえばお茶漬けということになるだろう。おいしいタクアンだと、他におかずはいらない!! と、思わせるくらい、おいしいものである。お茶漬けを食べさせたい!! 女優。もちろん、芝居の中で、である。「サラサラ。ポリポリ」と、音を立てて食べて一番にあう女優ということだ。そーなると、男たちは「アレがいい、コレがいい」と、自分の意見を通そうとする。十人十色、いろんな女優の名が出るものだ。ちょっと古いかもしれないが、原節子。山本富士子なんて筆頭ではなかろうか。今日では誰か。ウーン、美人女優ということになるわけだが、誰がいるだろう。矢野誠一『志ん生の右手――落語は物語を捨てられるか』(河出文庫、本体八八〇円)で、〈食べる藝〉という項目がある。ここでは、お茶漬けを食べる芸についてではなく、卓袱台にむかって食事をする芸についてであった。森光子の「放浪記」である。
 〈第三幕の尾道の場面がいい芝居になっている。この場面あるが故に「林芙美子作品集より」という角書のついた菊田一夫の「放浪記」は、林芙美子の「放浪記」をこえているといっていい。傷心の林芙美子が久しぶりに戻った実家に、最初の男が訪れてくる場面だ。世間なみの、なんともつまらぬ男になり果てていることに、芙美子はいたく失望するのである。この男の訪ねてくる前、芙美子は卓袱台にむかって食事をするのだが、ここの森光子のごはんの食べ方は悪くない。特別に腹をすかしているという風情でもなく、おいしそうというのともちがう。かといってまずそうにいやいや食べているのではもちろんない。要するに、ごくごくふつうにごはんを食べているのであって、それは演技というよりも日常の一断片そのままのようにも思える。〉(本書より)
 なるほど、そーいう観かたもあったのか!! と、感心する。やはり芝居は、あまり遠くの席でみては、そんな名場面、名演技を見おとしてしまうものかもしれない。
 〈この場面を見ながら「放浪記」の初演のすぐあとに出た雑誌「映画芸術」のタレント論特集で、広渡常敏がこのごはんの食べ方だけで、ユニークな「森光子論」を書いたのをまた思い出していた。(略)たしか広渡常敏は、森光子が舞台でごはんを実際に食べてみせる、その食べ方の見事さを絶賛したように覚えている。〉(本書より)
 そして、本書では著者は「こーいう見かたもある」というようなことを述べられている。
 〈食べているように見せて、実際に食べていないというのは、見事な技術というよりむしろ「藝」である。演技というものは、終極、「ほんとうらしく見せる」というところにぶつかるわけで、そのために必要でない余分なものを、どこまでそぎ落すことができるかに挑戦(略)〉(本書より)
 サテ、お茶漬けとタクアンであるが、これは実際に口にして音を立ててもらわなくては芸にならないだろう。私は、あの音をじっくり聞いてみたいのである。







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