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評者◆伊達政保
アングラ歌舞伎を超えた芝居が両劇団により出来上がった――新宿梁山泊と劇団1980の合同テント公演『宇田川心中』
No.2949 ・ 2010年01月16日




 唐十郎の状況劇場の流れを汲む「新宿梁山泊」と、今村昌平の日本映画学校が輩出した「劇団1980」の合同テント公演、演出は梁山泊の金守珍、脚本は三島賞作家小林恭二の初戯曲『宇田川心中』、出演は両劇団を始め唐組等からも加わっている。場所はなんと青山墓地に隣接する青山公園とくれば、見に行かないわけにはいかないだろう。
 外見は普段のテントなのだが、内部の客席やとりわけ舞台はちょっとした劇場規模、テント芝居の概念を超えた設営となっている。舞台上の大きなフラットパネルに、現在の渋谷駅前スクランブル交差点が写し出され、バックにはピンクフロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」が流れる。この曲だけでオイラ、芝居に引き摺り込まれてしまった。
 映像により物語のプロローグ、現代の二人の出会いが上映され、パネルが分解しそこは百五十年前の宇田川町、道玄寺参道となる。映像と芝居のコラボレーションを現在と過去として、使い分けるうまい構成だ。また複数の大きな立方体の大道具を、回転させ組み合わせることで、幾つもの場を作り上げる辺りは、1980の決め技なのだろう。
 さて物語は、小間物屋の娘はつ、陰間の桜丸、道玄寺若僧の昭円を巡って展開する。小林恭二の展開するストーリーは複雑に入り組んでおり、とても簡単に説明出来るようなものではない。歌舞伎の心中物とは全く違った物語が、人情物、世話物、縁起物、因果物、白波物、色悪物等の歌舞伎の題材及びオィディプス王の要素も取り込んで、時空を超えて展開する。まるでSFだ。幕間芝居の洗濯女と河竹黙阿弥による人情話の二人芝居は、それだけで芝居として成り立つのではないかと思わせるし、桜丸と亡者達の大立ち回りの見せ場もある。時代物の群衆場面は1980の十八番だし、コロスの集団台詞はこれまた梁山泊の得意技だ。ええい、身も蓋もなく言ってしまえば、現世で添い遂げることが出来ない、はつと昭円が来世で出会うために心中し、現代に転生し再び出会うという話なのだ。ラストは再び映像で現代の二人が現れる。パネルが割れテントが開くと、そこは現実の同じシーン、そこに舞台の二人が消えていく。見事なエンディングだ。
 かつてアングラ演劇において、伝統芸能に安住し硬直化した歌舞伎に対し、芝居の原点に回帰しようとするアングラ歌舞伎という試みがなされたことがある。また多くの芝居に歌舞伎の要素が組み込まれた。しかしそれは歌舞伎や新劇に対するアンチテーゼとして、未消化に終わった。今回、ここに小林恭二の戯曲を得て、アングラ歌舞伎を超えた芝居が両劇団により出来上がったように思うのだ。







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