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評者◆秋竜山
子規で生き生き、の巻
No.2947 ・ 2009年12月26日




 NHKスペシャルドラマで「坂の上の雲」の正岡子規がいきいき演じられている。ドラマ上で子規が喀血した場面を観た。いわゆる子規の本格的な子規のはじまりではなかろうか。坪内稔典『正岡子規の〈楽しむ力〉』(NHK出版・生活人新書、本体七〇〇円)が出た。子規が身近になるだろう。私の子規のイメージは、病床の中で痛い痛いと転がりまわるといったものだ。つらいつらいイメージである。
 〈明治二十二年五月九日の夜、突然に血を吐いた。だが、子規は喀血とは思わず、咽喉から出血したのだろうと思っていた。翌日、医師に診察してもらったら、肺病だとのこと。その夜、また喀血した。それが十一時ごろで、子規はそれから俳句を四、五十句吐いたという。
 卯の花をめがけてきたか時鳥
 卯の花の散るまで鳴くか子規
こんな俳句であった。時鳥も子規も鳥のホトトギスを指す。〉(本書より)
 ホトトギスといえば「啼いて血を吐く時鳥」である。子供の頃、俳句というものを知ると同時にホトトギスを五・七・五の中に入れればどんなものでも名句になると思ったものであった。「ホトトギスああホトトギスホトトギス」とつくったような気もするが、「松島やああ松島や松島や」という名句があるから、それにならってのものかもしれない。もしかすると、誰かがすでにつくって、それを見て自分でつくったものとサッカクしたのかもしれない。
 〈明治時代のホトトギスは、単に風流なだけの鳥ではなく、死病として恐れられていた結核の代名詞でもあった。ホトトギスはかん高く、たとえば「テッペンカケタカ」とか「東京特許許可局」と鳴く。その鳴くとき、赤い喉が見えて、あたかも血を吐いているように見える。〉(本書より)
 そして、なにがすごいかって、子規自身である。それにしても、シキなど、エンギでもない。
 〈子規は明治二十二年の五月に喀血したが、そのとき、自分に死病がとりついたことを知り、余命十年を自覚した。そういう自覚において自らつけた名が子規であった。要するに「子規」という名前は、内に抱えた爆弾のようなものだった。子規という名前にはいつも死が貼りついていたのだ。〉(本書より)
 私がなんともうれしいのは子規が絵にのめりこんでいったことである。
 〈僕に絵が画けるなら俳句なんかやめてしまふ。とまで言っている。子規の枕元に果物や草花、玩具などを置いて写生したが、いろんな画集も枕元に広げられた。「病牀六尺」には「鶯村画譜」、景文の「花鳥画譜」、「公長略画」、松村呉春、円山応挙、谷文晁、河村文鳳、歌川広重、尾形光琳、そして渡辺南岳の絵など。身動きもままならない子規の枕元は、一種の美術館であった。〉(本書より)
 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺。子規の有名な句である。柿を食べるたンびに、この句が浮かんでくる。〈ともあれ、子規を読んだり、子規のことを考えると、おのずと自分が生き生きとする。その理由のようなものをこの本に書いた。子規の楽しむ力(楽力)、それが私にうつるのである。〉と著書はあとがきで述べられている。本当にそうだ!! と、私も思った。







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