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評者◆秋竜山
いつの日かまた、絵物語、の巻
No.2946 ・ 2009年12月19日




 三谷薫・中村圭子編『山川惣治――「少年王者」「少年ケニア」の絵物語作家』(河出書房新社、本体一六〇〇円)を読む。私にとっての山川惣治という活字名は、少年王者という文字がダブって見える。昭和20年代に心をおどらせて漫画雑誌と共に自分があったように思う。その当時は、もちろん少年であった。少年であってよかったと思う。少年だったからこそ、夢中になれたのだ。もし、大人になっていて「少年王者」を初めて見たとして、子供の時のような胸のときめきが経験できたかというと、まず、それは無理だっただろう。説明できないほどの経験であった。あの時の感性をもし説明したとしても、説明になっていないくらいの、どう説明してよいか、それすら説明できないだろう。
 〈「少年王者」や「少年ケニア」で知られる山川惣治は昭和二〇~三〇年代を中心に活躍した絵物語作家です。密林のなかで孤児となった日本の少年が、仲間に助けられ、ともに闘いながら強くたくましく成長し、ついには王者となって森の動物たちの平和を護るという山川作品に典型的なストーリー……最も弱かった者が、苦難を乗り越えながら最強の王者になっていくという展開は、敗戦後の疲弊した日本人に希望を与え、立ち直る勇気をもたらしました。(略)〉(本書―はじめに)
 戦後まもない頃といえば「孤児」が代名詞のように、そして今となってはなつかしくもなる。「少年王者」では密林のなかで孤児となった日本の少年、そして映画や歌のなかでは、美空ひばりが天才少女歌手として世に出た。それも、「孤児」を演じていた。「孤児」によって美空ひばりがうまれたといってよいほどであった。その当時の少年たちは、手に「少年王者」を持ち、ひばりの歌を口ずさんでいたのであった。
 〈「少年王者」は、山川惣治の名を一躍有名にした作品である。終戦直後、山川惣治は紙芝居「少年王者」を描く。それに注目した小学館の社長が、関連会社の集英社から昭和二二年(一九四七)単行本の「少年王者」を発売し、それが驚異的な人気を呼んだ。(略)「少年王者」は、絵物語というスタイルを確立した作品でもある。それまで少年読み物の主流を占めていたのは「小説に挿絵」という形態であり、絵よりは文章の占める割合が大きかった。しかし「絵物語」では、文絵の比重は同じくらいになった。山川に続き、小松崎茂や福島鉄次らの絵物語作家が次々登場し、昭和二〇年代後半にかけて、絵物語の勢力は拡大を続ける。漫画、そして劇画が台頭しはじめる昭和三〇年頃まで、絵物語全盛の時代が続いた。〉(本書より)
 絵物語から漫画、そして劇画となるわけだが、アニメがその後に続くのか。そして、また、いつの日か、絵物語となるのか。今、学校などで静かな紙芝居ブームになっているとか。テレビのように動きっぱなしの映像から、静止した画面がいい!! なんて時代が来たらどうしましょう。かつての少年王者世代も今や中年王者から老人王者へと進んでいく。そういう世代が「少年王者」の、このような本を買う読者なんだろうか。「あまりの、なつかしさのあまり、つい買ってしまった」。やっぱり密林の中に夢があるようだ。今でも。







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