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評者◆小嵐九八郎
一年半に一冊ぐらいの「めっけもん」――芥川喜好著『バラックの神たちへ――あるいは近代画の内景へ』(深夜叢書社、本体二〇〇〇円)
No.2946 ・ 2009年12月19日




 当方が小学生の頃、一九五〇年代は、学校では昼休みに”なぞなぞゲーム”が盛んで、家でも夜中に布団に潜って姉達とやりあっていた。俺は、しかし、推理能力に欠けている。いつも答に迷ったあげく、誤答が多かった。思えば、問題提出者が既に解答を知っているわけで、やや”狡い”遊びだった気もする。なのに、ごめんなさい、次の文は何について書いた文章か、解りますか。
 「連帯とは人間の楽天性によってのみ成立を保証される行為だということに気がつかなかったのは、迂闊というより病そのもののせいである」。六〇年代・七〇年代の革命運動の総括、と答えた人は、ブーッ。でも、的を射ている、厳しい文章である。ただし、当方は”楽天家”なので悔いは残らない。なお、ある、とすら感じている。
 「異質なものをそのまま異質なものとして傍らに置くことのできない本能的な排他性。同化し、一体化せずにはおかない強力な統合原理」。自称前衛党への批判、と答えた人は誤り。日本帝国主義史、との答も、大きな意味では外れていないけど、ちいーっと違う。
 「勝ち残った者が勲章をぶら下げて自らを国家の威光で飾るあのぶざまな光景」「彼らが欲したものは権力なのだ」。現代を含む日本ブンガク史、と答えた人は、ジャンルが少し別で誤答に近い。もっとも、当方は、”権力”に近い、かすかすの”金力”が欲しい。
 正解は”近代絵画の歴史の検証”、いや、浅井忠、村上華岳、木田金次郎、小川芋銭らの生の絵を見つめて感動し、中央画壇へ反抗、あるいは脱落、あるいは関係ねーよとした画家について書いた文章である。
 出典は『バラックの神たちへ――あるいは近代画の内景へ』(芥川喜好著、深夜叢書社、本体2000円)である。芥川喜好氏は、読売新聞の美術記者を三十年もやっていたから、いわば”正統派”だ。が、画壇の腐敗なんつうものだけでなく、近代そのものへの根底的批判の眼で美術史を書いている。その思いは、亡き画家にレターで迫るほどに凄い。一年半に一冊ぐらいのめっけもん。
(作家・歌人)







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