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評者◆小嵐九八郎
現代日本の煮詰まった縮図――北羽新報社編集局報道部編『検証 秋田「連続」児童殺人事件』(本体一八九〇円、無明舎出版)
検証 秋田「連続」児童殺人事件
北羽新報社編集局報道部編
無明舎出版
No.2941 ・ 2009年11月14日




 喉元過ぎれば熱さを忘れる、という諺とはちいーっと違うが、二〇〇六年四月、五月と秋田県の白神山地の麓の藤里町で起きた〝連続\"児童殺人事件は、かなり速いスピードで一審、二審が終わり、今年の六月に被告が上告を取り下げ、無期懲役が確定し、そろそろあの事件の衝撃、途轍もない厳しさ、背景、被告の「そうしてしまった」心情の検証が世間から忘れられようとしている。
 俺は好い加減な人間なのだけれど、この件は、なにかしら体で覚えているようなところがあるし、故郷のごく近くで起きたことなのでそうもいかない。そもそも、幼い子どもを抱えて離婚し、ガスも止めるしかない貧乏暮らし、ことを起こす前から精神の病でも悩み、しかも女としても若く捨て切れない夢もあろうし、地方は都市の矛盾を引き受けた上にそれ自身として疲弊も因習もあるし、この件は現代日本の煮つまった縮図であると考える。
 このできごとについては、今年の六月、我等の世代の過酷な労働を知らぬ口先の新左翼(当方も然りであった)に『自動車絶望工場』(講談社文庫収録)で生生しい現場を教えてくれたあの鎌田慧氏が、『橋の上の「殺意」――畠山被告はどう裁かれたか』(平凡社、本体1800円)で、実に深く、頭を臍まで下げるしかない力で迫っている。この本はこの本で、きっちりと取り上げるしかなく、「人間は、果たしてこういう人間を裁けるのか」に当方は至ってしまう。
 この十月には、『検証 秋田「連続」児童殺人事件』(北羽新報社編集局報道部編、無明舎出版、本体1890円)が出版された。北羽新報は、ことが起きたところも含む能代・山本郡一帯の地方紙である。この新聞に連載したものに加筆修正、記者ノートも含めての内容である。文字通り、靴底を減らして取材し、特に裁判内容については裁判官への批判も事実から検証し、導き出している。「連続」と「 」を付けているのは、自らの娘についての〝殺意\"への疑問が入っている。我らのみならず、裁判員、弁護士も読んで考えこんで欲しい。資料としても一級品。
(作家・歌人)







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