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評者◆秋竜山
欲望か、幸福か、の巻
No.2941 ・ 2009年11月14日




 西成活裕『無駄学』(新潮選書、本体一〇〇〇円)を読む。無駄になるかならないか、なんてことを考えてしまう。
 〈無駄という言葉は日常使っている馴染み深いものだが、深く考えてみると難解で、きちんと定義することが難しい。冒頭に書いた通り、一見無駄に見えても、無駄でないようなものがたくさん考えられるからだ。無駄とは何かについて現時点でいろいろと調べた結果、私は無駄について一般的に論じている文献をほとんど見つけることができなかった。類書がない、ということも本書の早期出版を決意させた要因だ。おそらく無駄とは誰でもほとんど無意識のうちに「こういうものだ」と思っているものなので、改めて深く考えられてこなかったのかもしれない。〉(本書より)
 無駄学なるものを面白がる人と、面白がらない人がいるだろう。面白がる人は、無駄ではないと、考える。そして、面白がらない人は、無駄だと考える。面白がる人にとっては、面白がらない人までも面白がる対象にしてしまう。なぜ面白がらないのか、馬鹿だなァ!! 面白がらない人は、なぜ面白がるのか、そんなことを、馬鹿だなァ!! 私は面白がり人間である。そして、日頃、無駄なことばかりしているのに、無駄について考えもしなかった。本書によって無駄という言葉を大発見したようにさえ思えてしまうのである。第2章に〈無駄とは何か〉。無駄であることはわかっているが、あえて無駄とは何かと問われると、ハテ? 何だろうと考え込んでしまう。
 〈無駄という言葉をきちんと定義するのは難しい。一見無駄なものに見えても、いつか役にたつこともあるからだ。(略)貴重で価値あると考えられるものが、「有効に使われていない」あるいは「失われてしまったとき」に使うということだ。(略)経済学では、価値のあるものはすべてお金に換算して考える。例えば時間だが、無駄に過ごしてしまった時間の損失を金額で評価する(略)。「お金に換算できるもの、つまり時間、労力、資源などが有効に使われなかった」と気がついたときに無駄という言葉を使う。〉(本書より)
 気がついたときに無駄という言葉を使う、ということは気がつかないときには無駄ということがわからないということになるのだろうか。すると、無駄とは「気がついた時」にうまれる言葉ということになるのか。ハッ!! でも、フッでもいいが、気づく。「アア……俺は一生を無駄にすごしてしまった。」これは、気がつかなかったら、このようなセリフが口から出るわけがないだろう。無駄であると思えば無駄であり、無駄と思わなければ無駄ではないということか。〈仏教経済学の提唱者である故・井上信一は、幸せの計算式を単純に次のように定義している。幸せ=財÷欲望〉財産を欲望で割る。〈これは仏教的な考え方であり、人の持つ欲望が大きければそれだけ幸福が減ることを意味している。〉欲望だらけの人間にとっては幸福が減ってしまうことになる。欲望をとるか、幸福をとるか。欲望を先にとっていて、後になって幸福にならなかったのをくやむ。大きな欲望、大きな幸せ、というわけにはいかないのか。無理かしら。







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