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評者◆内堀弘
私の知らない私――『ザ・テレビ欄 0――1954~1974』(TOブックス)をめぐって
No.2939 ・ 2009年10月31日




 某月某日。古本屋という仕事をしていると、自分が生まれる前のことに大変詳しくなってしまう。私は五十代だけど、図々しいことに二十代の頃がそう昔には思えず、つまり三十年も前に出た本を「最近の本」と思ってしまう。古本屋だから「最近」のことに興味は持てず、いきおいもっと古い時代、私の場合は昭和初頭のモダニズムの時代に没頭してしまった。当時の文献を蒐集し、その時代に青年期で過ごした人からもいろんな話もうかがった。そのうちこちらの方がすっかり詳しくなってしまい、うっかりすると当時を知る老モダニストに「そうじゃないんですよ」と教えていたりしたものだ。
 『ザ・テレビ欄0――1954~1974』(TOブックス)という新刊は、各時代の新聞のテレビ欄を集めた一冊だ。見ていて飽きることがない。1961年の土曜6時に「ホームラン教室」という番組名を見つけるや、頭の中に突然主題歌が甦る。「ポンポン大将」という字面に小金治の笑顔が浮かぶ。人の記憶とはどうなっているのかと驚くばかりだ。
 私は小学生の頃、夕飯は七時からで、テレビは必ずNHKの七時のニュースにすることとなっていた。これが親の厳格な方針で、自分はそうやって育ったのだとつれあいにもよく話したものだった。
 ところが、この本を見ていると小学校高学年で私が欠かさず見ていた「忍者部隊月光」「鉄人28号」「宇宙少年ソラン」「スパイキャッチャーJ3」「ハリスの旋風」(みな主題歌が甦る)はいずれも七時からの放送なのだ(私はみな六時からだと思っていた)。これに土日だけは特別だったと思っていた「鉄腕アトム」と「アップダウンクイズ」を加えると、つまり私は毎晩テレビに夢中になりながら、気もそぞろに夕飯を食べていたことになる。こう言っては何だが、私の知らない私に驚いてしまった。 これは自戒を込めてしみじみ思うことだが、こういうことって、その頃はまだ生まれてもないような若い古本屋から「忍者部隊月光は金曜の七時ですよ」なんて教えられたくないものだ。私は老モダニストたちに不遜であったのか。恥多い人生である。
(古書店主)







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