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評者◆小嵐九八郎
書評は難しい、なのにのびのびと――辻井喬著『かたわらには、いつも本――辻井喬書評集』(勉誠出版)
かたわらには、いつも本――辻井喬書評集
辻井喬
No.2938 ・ 2009年10月24日




 小説は、無内容としても、テーマを決め、キャラクターとストーリーを作っておけば何とかなるという思いこみが当方にはある。短歌は、なお詩に託する感情が残っていて、軸にある歌を四首ぐらい作っておくと、ようやっと二十首できる。エッセイも、読者はほとんど不在と知りつつ、素材があればシメがきて手が動く。
 難しいのは、小説・思想書・詩歌への書評、解説である。死んだ人については、少しは軽はずみの批判を書いてもゲバルトではやってこないので、割あい楽である。生きている新人の人に対しても、少しでもいいところを見つけようとするので、罪悪感が少なくすむ。問題は、生きている中堅、大家の作についてである。ものを作る人というのは、九割九分、おのれを見ても嗤いたくなるが、自意識がすごい。へたに傷つけたら、食えなくなる。もっというと、自分のものの見方、感性、思想性が晒されるので、怖くなる。よいしょやゴマすりは、すぐに見抜かれる。んで、なにを書けばいいのだア、となってしまう。
 俗まみれのこういう俺自身が、手にしたのが、『かたわらには、いつも本』(勉誠出版、本体2000円)で、サブタイトルは「辻井喬書評集」だ。御存知の通り、辻井喬さんは、かつてセゾングループの創業者、詩人、小説家である。東大在学中には、学生運動に熱中していた。ゆえに、俺なんつうものではないしがらみ、小説家としての他者への眼差し、詩人としての言葉へのこだわりがあるはず。なのに、ヨハン・ホイジンガやトーマス・マンなどの亡き先達者の小説、同時代の作家、思想家達の本、詩歌の書評は、まるでのびのび、闊達、正確なのである。松本清張を「大衆的〝正義感〟」(この〝 〟でくくるところに注意)、瀬戸内寂聴さんの『秘花』に対し、世阿弥を通して瀬戸内さんにも「鵺」の闇を見て、これが創作衝動だというのである。
 政治、経済活動、歴史観、生身の詩人・作家の苦しみから総力で書評を記された人は幸せである。糧にして、次へいけるだろう。
(作家・歌人)







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