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評者◆秋竜山
風に乗った美空ひばり、の巻
No.2936 ・ 2009年10月10日




 ついに出たぞ!!〈没後二〇年渾身の書き下ろし〉〈書き下ろし800枚〉。齋藤愼爾『ひばり伝――蒼穹流謫』(講談社、本体一八〇〇円)を感動と共に読む。美空ひばりを誰もがいいという。もちろん、私もだ。ひばりをワクワクしながら会話しているなかで、私は相手に聞いてみる。「ひばりの歌をどのへんから聞いていますか?」相手が答える。その答えによって、アッ、この人は、ちょっとズレたところでひばりを知っているんだな!!という、ひばり物における評価基準のようなものがある。私のガンコで(ひばりに関してだが)信じてやまないのは、美空ひばりの本当のよさというものの基準を勝手に決めてしまっていることだ。誰が何といおうとも、本当のひばりそのものは、本書の最初の一行からはじまる〈戦後は〈廃墟〉から始まった。〉である。この一行によって美空ひばりはうまれた。もし戦後というものがなかったら、本当の美空ひばりはありえないだろう。もし、戦後がなく昭和二十年代もバブル期のような豊かな世の中だったら、ひばりが誕生はすれど、たんなる歌の上手な子供歌手としかとらえられなかっただろう。時代が天才をうむ、のか、天才が時代をうむのかしらないが、ひばりはフローシャとかフロージの中から光をはなつのであった。あの歌声がピッタリとあったシュンカンだ。であるからして、本当のひばりは子供時代、フロージ役時代の五・六年間ではなかったろうか。それから後は天才歌手美空ひばりであり、本当の次の美空ひばりということになるのではないかと、勝手ながら私は思ってしまうのだ。その点において、我らの齋藤愼爾さんは一九三九(昭和一四年)うまれである。この年代の人たちは、本当の美空ひばりを書けると私は信ずる。
 〈美空ひばりということで脳裏に浮かぶのは、「悲しき口笛」や「東京キッド」、「越後獅子の唄」で、そこで歌われる孤児、浮浪児、靴磨き、角兵衛獅子らは、いずれもよるべなき子どもの象徴である。秩序に馴染めず、はぐれている影の私である。あくまでも文化良民からの被差別の次元に寄り添っていこうとする「反近代」志向、混沌とした母なる闇への回帰、溯行の志向性が初期のひばりからは感じられる。〉(本書より)
 著者はひばりの初期の歌をリアルタイムで聞いているという。しかも、ひばりと同じくらいの年代であるということだ。それが、すごい!!のである。つまり、ひばりと同じくらいの年齢の人たちは、ひばりそのものである。そういう人が、ひばりの子供時代を書くと、ジーンときてしまうのだ。
 〈私は「悲しき口笛」も「湯の町エレジー」もリアルタイムで聞いている。今でも伊豆の温泉郷を旅すると、この町に来る観光客が皆な初恋のひとをたずねて来る人に見えるという〈湯の町エレジー〉後遺症がある。〉(本書より)
 そして、ひばりの「悲しき口笛」である。私は伊豆の伊東出身であることから子供時代、特別なつかしくもなる。本書で、なつかしさが込み上げてきた。ひばりの歌に最初に出会ったのはいつか、何という歌か。著者は、ひばりの歌が風に乗って流れてきたという。同じだ。私も伊豆の海岸の松林の中で風に乗ってひばりの歌が流れてきたのを聞いた。「私の街の子巷の子」、であった。







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