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評者◆伊達政保
恣意的な批判、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのか――小熊英二著『1968 若者たちの叛乱とその背景』(新曜社)
No.2936 ・ 2009年10月10日




 これが社会科学的に検証され研究された学術書ならば、日本の大学には学術研究などもはや存在しない事になる。それとも著者の言う、大学に真の学問研究が存在するなどという「保守的」な大学観に、オイラもいまだに囚われてるってことかい。今を時めく大学教授の小熊英二氏が、分厚い上下二巻で合計1万4千円以上もする大著『1968 若者たちの叛乱とその背景』(新曜社)において、序章で自ら本書を学術書と称しているから、ついからかいたくなっちまった。
 評論家小熊英二の書き下ろし大長編評論というのであれば、その努力に敬意を払いもしようし、細かい誤りや事実誤認を指摘して、著者の捉え方を批判すればそれで済むことだ。しかし社会科学的に検証された学術書として大手を振ってまかり通るのであれば、その弊害は甚だしい。後代の研究はこの学術書を基礎に行われるからだ。その方法論は、文献資料を読み解く中から導き出された仮説を、膨大な文献資料を元に検証し実証するというものである。下手すりゃトートロジーだ。しかし、最初から恣意的な仮説を立証するために一次資料、二次資料等の正確性や直接検証もなく、都合のいい部分だけを引用して仕上げた本であると、これまで多くの批判がなされているから、今更繰り返すまでもないだろう。
 さて本書はいわゆる「1968年革命」に対する、膨大なアンチテーゼということが出来る。ただ「1968年革命」は、その包摂する時間に関し、その論者によって60年代に重きを置くか、70年代に重きを置くかでその相貌がだいぶ違ってくる。その違いに付け込んで、本書は1968年の「政治と文化の革命」はなかったなどという、恣意的な批判を繰り返すのだ。
 著者は「あの時代」の叛乱の始まりを、65年の慶応大学闘争から書き起こし、巻末の年表は74年で終えている。著者は元号制反対だろうが、「あの時代」とは「昭和40年代」のことなのだ。おかしな言い方になるが、「1968年革命」は「昭和40年代」に起こったのであって、1968年に起こったのではない。例えばこの時代に、短髪・学生服の大学生が、長髪・ジーンズに変わったというのは象徴的な意味で凄い事なのだ。大衆消費が変わっただけなどという、アカデミズムの大衆社会批判ではもはや通用しない。大衆文化が思想の前面に出てきたことも、この時代の革命なのだ。
 ところで著者は山本義隆が嫌いなのかね。東大闘争を象徴する人物だからなのか、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、東大闘争を批判するのか。現在の彼の生き方を認めたくない感情、嫉妬や対抗意識が行間から滲み出している気がするがね。
(評論家)







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