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評者◆内堀弘
前衛俳句の個人出版社――大岡頌司にとって書物は作品であったに違いない
No.2935 ・ 2009年09月26日




 某月某日。青猫書房の古書目録に『大岡頌司全句集』(平14)を見つけた。この俳人の全句集が出ていたのを私は知らなかった。大岡が亡くなったのが、たしかこの頃でなかったか。
 大岡頌司は、昭和三十年代にいわゆる前衛俳句の新鋭として登場する。昭和四十年代には端渓社というプライヴェートプレス(個人出版社)を興し、多くの前衛句集を送り出した。その造本センスは際立ったものだった。
 もう四半世紀以上も昔の事だが、駆け出しの古本屋だった私は大岡頌司の仕事場に行ったことがある。「高柳重信を卒業したい」。高柳は前衛俳句の先駆者だ。初対面の古本屋にそんなことを言ったのは、ただ自分にそう言い聞かせていたのだろう。大岡の説明を受けながら、前衛俳句の稀覯書を私は頒けてもらった。仕事場の窓外には青々とした水田が遠くまで広がっていた。
 その仕事場に家庭用のミキサーがあって、これで本文用の和紙を作るのだと教えてくれた。驚く私に、だから同じ本でも一冊ごとに違った出来なんだよと、まるで種明かしのようだった。本を作るのが好きなのだと思った。
 大岡頌司は高校時代に寺山修司が出していた俳句雑誌『牧羊神』に参加していた。大岡の作品「野の傷は野で癒ゆ麦の熟れし中」(句集『遠船足』昭32)は、寺山の代表歌の一つ「血と麦がわれらの理由工場にて負いたる傷を野に癒しつつ」(歌集『血と麦』昭37)に写されている。直裁に言えば盗まれているのだが、「でも、寺山が作ったものの方がやっぱりいいんだよ」、大岡はそう言って静かに笑った。
 大岡にとって書物は作品であったに違いない。和紙を基調とした端渓社本の魅力を知ったのは、やはり青猫書房の古書目録だった。もう三十年近くも昔のことだ。今号の古書目録にこんな一文があった。これほど優れたプライヴェートプレスが、『銀花』のようなメディアに一度として取り上げられなかったのは「奇跡的なめこぼし」だと。俳人大岡頌司も、彼の作品である端渓社の本も、どこか似ている。
(古書店主)







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