書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆ベイベー関根
「駒画」提唱者、松本正彦の真価を問うチャンスがついにやってきた!――松本正彦『劇画バカたち!!』(青林工藝舎、本体一五〇〇円)、『隣室の男』(小学館クリエイティブ、本体三六一九円)
No.2933 ・ 2009年09月12日




 いや~、桜壱バーゲンがカフカの『変身』をマンガ化したり、小林まことが長谷川伸の『関の弥太ッぺ』をマンガ化したりするってどういうことなの。しかも、それがけっこういいってのがまたスゴいよな。
 だけど、今回とりあげるのはそれじゃなくて、これも出てからしばらく時間が経っちゃったけど、「劇画」誕生の立役者のひとり、松本正彦の『劇画バカたち!!』と『隣室の男』だ。
 知ってる人は知ってるとおり、松本は劇画に先立って「駒画」を提唱して、手塚路線一辺倒だった戦後マンガ界に衝撃をもたらした重要人物だ。そのわりにさほど評価されてなかったり、作品が読めない状況が続いていたんだけど、劇画誕生50周年記念出版の一環として、この2冊が立て続けに刊行されたわけだな。
 この欄でも、しばらく前に辰巳ヨシヒロの『劇画漂流』をやったばかりだったんで、また似たようなのをとりあげるのもどうかなあと思っていたんだけど、いや、これは重要だわ。ただ、松本本人も認めるとおり、その独自性が今はけっこう見えにくくなっているのが、名のみ伝わっていて作品がなかなか復刻されなかった理由でもあろうなあ。『劇画バカたち!!』は、劇画黎明期の、松本、辰巳ヨシヒロ、さいとう・たかを3人の動向に焦点を当てた青春実録モノで、それこそ『劇画漂流』を別視点から見たものって感じ。もっとも16年も前に描かれたものだがな。時代の証言でもあるとともに、独特のあたたかみが魅力だ。
 『隣室の男』は、辰巳ヨシヒロなどにショックを与えた表題作から70年代の抒情青春ものまでを含む作品集で、これは今の読者にはとっつきづらいかもしんない。絵柄がいかにも古くさくてヘタに見えるだろうからなあ。で、そこになんとか突破口を見いだすべく、御祝儀エッセイや解説を載っけた文字ばっかのページが100ページ以上もあるんだよ! 気持ちはわかるが多すぎる! 解説では、複数の論者が、松本が提唱した「駒画」の意義をあれこれ考えつつも今ひとつ本質に迫りきれてない感じだが、要するに、それまで描きたいものだけ描いてきた子どもマンガの世界に、見ることを対象化したマンガが生まれてきたっちゅうことでしょう。そんでもって、ふつう映画的手法っていうと、アングルの問題とか時間の経過のことばかりがいわれるけど、松本はそればかりじゃなく、映画でいう編集、つまり彼のいう「構成」の問題に取り組んでみたっちゅうことでしょう。その雛形として、ここでもやっぱりフィルムが参照さてるのがポイントだな。ただ、松本の試みは必ずしも成功していないし、彼もすべての作品でそれを志しているわけでもない上に、アングルや構図といったハデな要素だけがクローズアップされて劇画に受け継がれていったため、松本の試みの全体像は確かに見えにくかったんだろうなあ。しかし、ここにこれからも活かせるマンガのヒントがいっぱい詰まってることは間違いない! 必読!
(セックスシンボル)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約