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評者◆Y
コミュニケーションは「利害」ではない――人と人との齟齬から起こる問題を解きほぐす方途
思い込みュニケーション―ある学際教授のイマジン
秋山武清
No.2933 ・ 2009年09月12日




 最近、よくいわれることとして、若い世代の人たちのコミュニケーション下手がある。そんなことはない、携帯でよく会話をしているし、メールでもコミュニケーションを図っていると反論されそうだが、直の会話が欠けているのは、確かだと思う。コミュニケーションというのは、ほんらい直接的な人と人との関係を指していた。インターネットツールが一般化される以前は、固定電話やFAX、手紙といったものが、その補助的な役割を果たしていたわけだが、それでも面前での直接的会話をやはり重要視していたものだ。
 いまは、〝声〟での遣り取りすらなく、メールのみで用件をこなしてしまうことも、しばしばある。それはそれで簡便でいいと思うのだが、過剰化される書き文字によって気持ちの行き違い(もちろん面前でも起きうることだが)が発生した場合、なかなか修復に時間がかかる(メールの送受信は、直の〝声〟での遣り取りと違って、〝間〟ができることによって、却って言葉の訂正が難しくなってくる)ことがある。
 本書は、コミュニケーションをいかにうまくとるかといったマニュアル本ではない。電信オペレーターとして働きながら、大学院を修了、その後、民間調査機関勤務、専門学校講師等を経て現在、青山学院大学経営学部教授である著者が、あくまでも自分自身の体験に添ったエピソードを語りながら、人と人との齟齬から起こる問題を解きほぐす方途をさりげなく提示しているのが、本書である。
 例えば、「日々の挨拶だけでなく、年に一度の年賀状であっても、われわれの価値観や人間観は思わずにじみ出るものである。利害関係によったり、上下関係によるのではなく、気がついたほうから自然に挨拶するのが本来の姿であろう。それでこそ社会生活を円滑にする機能を発揮できるのである。(略)知らない人に対しても声をかける挨拶観はわれわれの社会にもっと積極的に取り入れるべきことかもしれない。(略)挨拶はコミュニケーションのほんの一部に過ぎないが、おろそかにはできないものである。職場で発生する問題の真因が、実は挨拶に端を発しているということも少なくないからである」(73~74P)と述べていく箇所に、そのことは表れている。
 コミュニケーションをうまくとるということは、技術や知恵の問題ではない。「自然に」という感性を育むことが大事なのであって、「利害」を念頭に置いて考えるものではないのだ。著者の態度は明快だ。「これまで『何でも自分なりに努力したら、後は天に任せる。人の評価はあまり気にしない』というモットーのもとに生きてきた」(198P)という潔さがいい。他人に気遣いをするということは、もちろん大切なことだが、他人の目を気にするというのは、全然、次元が違うことなのだ。「努力したら、後は天に任せる」ぐらいの気持ちが、いちばんいいのだ。
(Y)







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