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評者◆稲賀繁美
隠蔽された意図とその解明――ダリオ・ガンボーニ『潜在的イメージ』に宿る潜在的可能性・上
No.2932 ・ 2009年09月05日




 アンリ・フォシオンは「形態とはひとつの裂け目」だと言う。その奥には複数の形態が潜んでおり、その裂け目を通って我々は不確かなる世界へと誘われるのだ、と。ダリオ・ガンボーニの『潜在的イメージ』はこのフォシオンの言葉に誘われるようにして、創作の秘密に接近する。そこには近年のふたつの方法論の統合が目指されているようだ。
 一方には、生成批評。この三十年ほどフランス文学研究を発信基地として隆盛を見た方法である。日本でもプルースト研究の故・吉田城や、フローベール研究の松沢和宏らが、国際的に通用する手稿研究をなし遂げている。作品生成の過程で、創作家はさまざまに逡巡する。練り上げられたプロットが途中で放棄され、別の作品へと枝分かれすることもあれば、偶然に登場した要素が最後には決定的な役割を果たすこともある。その転変を見てゆくと、公刊された最終版を完成作として絶対視し、別格扱いする価値観そのものが揺らぐことすらある。
 文筆でなく造形藝術の場合でも、最初の早描きに残る矛盾しつつ錯綜した発想が、さまざまな変遷や再解釈、変更や加工を経て完成作へと収斂し、あるいは複数の成果へと予期せぬ分裂・展開を遂げてゆく。その様を丹念に探る楽しみは、捨てがたい。
 他方、一旦作品が完成すると、それは鑑賞者たちの解釈に委ねられる。読解を通して作品に潜む秘密が解明されることも多い。こうした解釈の軌跡は、受容史・享受史などと呼ばれる領分を成す。こちらもここ40年あまり、欧米ではコンスタンツ学派などを震源として、発展を見せた。シュライエルマッハーの聖書解釈学やディルタイの文献学、それらを受け継ぎつつ、ハイデガーの影響も蒙ったガーダマーの解釈学などの潮流が背景をなす。
 ダリオ・ガンボーニは、これらふたつの流れを、作品の現象学として統合する。そこで焦点となるのが、潜在的イメージ、という概念だ。それは二重の役割を負っている。一方でそれは、作者自身にとっても時として謎のように出来した、なかば偶成のイメージ、あるいは作者が作品練りあげの途上で意図的に意味を暈した曖昧なメッセージであり、他方でそれは、解釈者が読み取り損ねた謎、意味不鮮明で、確定不可能なメッセージとなる。そこにはどのような方法論的視野が開けるのだろうか?
(以下次号)
(国際日本文化研究センター研究員・総合研究大学院大学教授)







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